Sound 3-1

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 僕は、文化祭に参加することは半ば表面的な状態だった。  これまで取り敢えず生徒の一員として参加する程度だったため、れっきとした役職を持った状態で参加するということは初めてであり、それ故に、迫る文化祭がとても大きな壁のように思う。 「で、改めて言うけど、能鷹くんにはお経を読んでほしいの」 「……読経なんてやったことないよ」 「それなら配信アプリをやってみようよ」 「……読経を配信するの?」 「あそこの界隈、色んな人がいるからさ。 それに、第三者の意見も聞いてみたくない?」 「……まあ」  一理はある。 「私は、能鷹くんの活動を放送部だけに留めたくないの。 生徒会に放送部の存在を知らしめるには、少しでも良いから足を伸ばす必要があるんだ。 だから、能鷹くんには協力してほしい」  ──協力。  今日で聞くのは二度めだ。  委員長に声を掛けられたのも、あの放送で僕という存在が浮き彫りになったからに他ない。 これは微々たる変化であるかもしれないが、それでも僕の世界は確実に変わりつつある。 このまま行けば、僕が望んだ光景が、眼前に広がるはずなのだ。 「……初めて放送をしてから、少しずつ、僕の見ている世界が変わっていっているような気がするんだ。 だから、僕に出来ることなら協力する」  そう、告げた。  無論、人前に出ることへの恐れは未消化ではあるけれど、まずは出来ることから始めるべきなのだ。
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