Sound 3-2

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「これが初めての読経……かどうかは分かんないけど、ブラッシュアップでもっと良くなるのは確実ね」  椅子の背もたれに上体を預けたアオイが、そう告げる。 「……具体的には何をしたら良いかな」  顔を見合わせないのは、何となく怪しい会話だ。 「読み方として、もう少し言葉を濁らせると良いかも。 放送部としてハキハキ喋る意識は大事にしてほしいんだけど、お経はハキハキより微妙に聞き取り辛い方がリアルだからね」 「……はあ」 「で、次は声の響かせ方になるんだけど、聞いた感じ喉で声を出してる感じ若干あるのよね。 だから、腹式を更に意識して胸に響かせる感覚でやってみたらどうかな」 「……分かった」  アオイのアドバイスが続く。 私はそれらをメモに記しながら、アオイに対して尊敬の意を抱いていた。 お化け屋敷の演出について語った時もそうだったけれど、彼女は常に自信を持って行動しているのだ。 「アオイ、やっぱ凄いね」じわじわ広がったアオイへの敬意が、ぽつりと口から溢れていた。 「最後になんだけど……ん? どうしたの突然」  背を向けたままのアオイがこくりと首を横に傾げる。  アドバイス中に水を差したのを申し訳なく思いながら、私は続けた。 「自信を持って行動してる姿が凄いなあって思って」 「ああ、そういうこと」横に傾げられていた首が戻され、次に縦に揺れた。 「だってほら、最初から成功だけを考えてやらなきゃ楽しくないじゃない? 失敗を考えるなんて水を差すだけだもん」  まるで簡単な計算式を解説するようにさらっと言ってのける。 それがアオイの胸中にある強い芯なのだ。 「そういうわけで、あたしは手を抜かない。 折角の文化祭、大成功で終わらせようね。 二人とも」  右手でサムズアップが送られた。  私は能鷹くんと頷き合って、「勿論だよ」と今一度意気込んだ。
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