Sound 3-2

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 ♦︎  初め、放送室にアマネさん以外の人がいたのは驚いた。  壁を正面にして座っていた彼女は「アマネの親友のアオイです」と決してこちらを振り返らずに自己紹介をし、ついでに演劇部だとも言った。  どうやら読経の雰囲気を最大限活かすために、アマネさんが連れて来たらしい。 匿名性に関して僕が口を挟む前に演技指導が始まったわけだけれども、これが案外楽しかった。 あくまでも素人界隈な感覚ではあるが、僕は“上手くなっている”と思えたのだ。  そうすると自然に、練習に対する意気込みは強くなる。  だから、今日の練習もいつも以上に有意義となるのだ。  一度腕のストレッチを行い、さぁてと特別教室を出ようとしたとき、 「──やっ、偶然だね。 これから放送室に向かうところかな」  扉を開けた正面に、委員長が立っていたのだ。  僕は出鼻を挫かれた気分で首肯する。  こうも安易に足を運んでほしくはない。 「……何の用?」 「もちろん、文化祭のことだよ。 コレを君に渡しに来たんだ」  言って、彼女は束になったA4紙を右手に掲げた。 「白雪姫の台本ね。 改稿は一度だけしか行っていないからひょっとしたら言い回しが変わるかもしれないけれど、能鷹くんには〈ナレーター〉の指示がされている箇所を読んでほしいんだ」 「……はあ」  手渡された台本を適当に捲ってみる。 白雪姫のストーリーは朧げながらも覚えてはいるけれど、果たしてこんなに長い話だったろうか?  終盤のページに目を通すと、王子と魔女が激しい攻防を繰り返しているではないか。
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