Sound 3-2

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「因みにその辺りは、原作を基盤に私が文化祭用に変えた箇所なの。 やっぱり熱いシーンって大事でしょう? あとね、キスシーンは学生にとって分厚い壁だから、色々工夫を施しててね。 キスの瞬間は暗転させるんだ。 大っぴらにするよりか、ムードがあると思わないかい? 無論、生徒同士でキスはさせない。 キスのフリだ、分かるね。 で、晴れて二人の幸せが分かると……」  委員長はそこまで語ると、夢から覚めたようにハッとした。 そしてどこか気恥ずかしそうに笑い、「申し訳ない」と口にする。 「実は小説を書くのが大好きでね。 この台本は一年生の時に書き溜めておいた物なんだ。 ただ、当時はカフェをやることになって無駄になってしまったんだが」委員長の声に熱が帯び始めた。 「しかしだね、今年は念願の演劇になったんだ。 私は何としてでも成功させたい! そのためには君の力が必要なんだよ、能鷹くん!」 「……それはそれは」  厄介なことになったな、と思った。  まさかここまでの熱量とは想像していなかったのだ。 委員長の言う成功とは、演劇の一通りを淀みなく綺麗に流すだけでなく、最終日に行われるも含めているんだろう。 これはアマネさんの六組も同じであり、そこでも熱烈な協力を求められている。  即ち、僕は二つの催しを同等な熱量でやらなければならない。 あまつさえ、ナレーターは読経よりも演劇力が求められるわけで──。 「……やっぱり、僕なんかで良いのかな」 「え、急にどうしたの?」 「……いや」  もし、ここで辞退した場合どうなるだろう。  きっと委員長は落ち込むはずだ。 わざわざ僕の為にナレーター枠を空けるほどだったのだから。 ひょっとしたら、「アイツが役を蹴った」と言われかねない。 僕の預かり知らぬ所で悪評を吹聴されれのは嫌だ。 「……なんでもない。 取り敢えず、台本に目を通しておくよ」 「うん、ありがと。 もし改稿あったらまた伝えるから。 じゃあ今日はこれで」  委員長はふっと微笑んで教室の前を去って行く。 僕はその後ろ姿眺めた後、改めて台本に目を通した。  そして、アマネさんらは何と言うだろうかと危惧した。 ひょっとしたら、二組からの協力に賛成したことを咎められるかもしれない。  だからこそ、僕は黙っておくことにしたのである。  そもそも、僕一人の力で勝敗が決まるのではないのだから──。
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