Sound 3-2

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 ♢  能鷹くんの練習については、概ね順調とアオイは言ってくれている。 回数を重ねる度に彼の声色は“本物”に近付いているらしく、演技について詳しくない私はその成長を俯瞰的に感じ取っていた。  この頃から少しずつ、昼の放送時における能鷹の態度も板に付くようになっており、私にとっては良いことづくしの日々であった。 心なしか能鷹くんの表情にも和らぎが見て取れるような気さえしていた。  私もまたアオイと同じく、文化祭が大成功する様子を脳裏に描き始めたのだ。  同時に、放送部の継続が叶う光景も──。 「──天音、焼いたCD貸してくれる?」  アオイの声ではっと我にかえる。  今日、私は読経のお披露目会を挙行したのである。 これを楽しみにしていたからこそ、今し方、文化祭の成功を改めて描いていたのだ。  鞄から音声をコピーしたCDを取り出し、アオイに渡す。 教卓の上に置かれたラジカセにセットされると、数秒後にどこか薄気味悪い朗々たる声が流れ始めた。  教室の窓の向こうでは、まるでこの日を待っていたかのようにしとしとと雨が降り続いている。 天候は朝からこんな調子であり、放課後になっても雨は止まなかった。 すっかりどす黒くなった厚い雲が、遥か向こうまで広がっているのが分かる。  そんな中で聴く能鷹くんの声は、聴き慣れているにも関わらず異形な物として私の耳朶に流れ込んだ。  また、昼食時にしか能鷹くんの声を聴くことのない有識者の女子五人──挙行にあたり聴きたい者を募ったのである──は、その端正な顔立ちにどこか緊張や恐れを浮かべていた。  が、やがてそれらの感情は集約され──。
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