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♢
「──改めて言うと、能鷹くんの読経は高評価だったの!」
お披露目会の後、私は有識者らの意見をありのまま能鷹くんに伝えた。 アオイは今日は演劇部に顔を出すらしく、この場にいるのは私と能鷹くんだけである。 これは私にとって好都合だった。
「……それなら、良かった」
カーテンを閉めた窓の向こうから、アスファルトに跳ねる水音が聞こえてくる。 能鷹くんの声は、少しばかりその音に掻き消されそうであった。 また、蛍光灯に照らされる彼の表情がどこか不安な色を宿しているようにも見えた。
「どうかしたの?」
「……え?」
「いや、なんとなく浮かない顔してるなぁって思って」
「……そうかな。 気のせいだよ」
だけど言葉と裏腹に声に抑揚は無く──。
私は彼の様子に対し、
「まあ、今日が雨だから気分も沈みがちになっちゃうもんだよね」と、結論付けた。 私は組んだ両手を机に乗せて、「とかく、残りの装飾関係をアオイに任せるとして、私たちの話をしようか」
「……僕たちの話?」
「そう。 私たち放送部には、文化祭当日にやるべき仕事があってね」
昼放送における能鷹くんの雰囲気。 文化祭における能鷹くんの存在性。 これら二つを組み合わせ、私が彼に持ち出す話というのはつまり。
「開会式と閉会式、それと各催しのアナウンスを放送部は行うの」
言うと、能鷹くんの視線が揺れた(動揺した?)ような気がする。 恐らく緊張感が走ったのではないだろうか。 たしか初放送の日程を告げた際も、似たような雰囲気を纏っていた記憶がある。 私は続けた。
「この文化祭での立ち回りで、今後の放送部の明暗は決まると言っても良いんだ。 特に開会式と閉会式は全校生徒が参加するわけで、生徒会の人間もいることになる。 私たちの力を見せ付けるには、最高の舞台なの」
「……たしかに、そうだけど」能鷹くんは視線を徐々に下げ、「……僕の匿名性は、どうなるのかな」
「それなら心配に及ばないかな。 体育館のステージ脇に放送ブースがあるから、生徒からは私たちが見えないんだよ」
匿名性について軽く説明を施したその時。
──コン、コン、コン。
放送室の扉がノックされた。
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