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私は一度話を止め、席を立ち上がって扉へ向かう。 視界の端で、能鷹くんが部屋の隅に移動したのが見えた。 自分のことが露見しないためだろう。
果たして誰が来たのか、それは直ぐに判明した。
「──天音、ちょっと良いか」
鶴一先生だ。
こうやって放送室に来るのはなんとも珍しいことである。 思えば、常日頃から顧問が不在だなんて放送部くらいなもんだろう。 まあ、だからといって私が何か不満を抱くことは無いのだけれど。
私は扉を開けて、
「どうかしました?」
「今、時間はあるか」
「これから色々始めようかと」
「おお、そうか。 それなら良かった」先生は笑みを浮かべ、顔だけ放送室に入れると、視線を部屋の奥に向けた。 「彼は今日いるのか」
「能鷹くんならいますよ。 それで、御用件は」
「大したことではないんだけど、彼──能鷹くんに体育館の放送ブースを一度見てもらったら良いんじゃないかと思ってな。 文化祭の時、こことの設備の違いに戸惑うかもしれないだろう」
先生の提案内容はまさに、私が能鷹くんに行おうとしていたそのものであった。
私は「私もそのつもりでした」と告げ、能鷹くんに声をかける。 彼は恐る恐るミーティング室から顔を覗かせ、来室者が生徒でないことを確認すると幾分か安堵した様子になった。
先生が能鷹くんに同じ説明をすると、彼は「……分かりました」と口にした。 その口調には、どこか躊躇が垣間見えた気がする。
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