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「──という感じで、設備の紹介は終わり。 放送室より若干しょぼいの分かったでしょ」
ステージ脇の放送ブースにて、私は放送室とここの違いについてひとくさり説明し終えたところである。
「……まぁ、若干」
「ただ、放送の手順は同じだから悩まなくて良いからね」
と、そこで私は、能鷹くんの表情から拭い切れない不安が滲んでいるのを垣間見た。 気がする。 照明の暗さでそう感じただけかもしれないけれど、私はつい「どうしたの?」と訊いていた。
「……ううん、何でもない。 それよりもさ」
能鷹くんが右腕をもたげた。 何かを指し示しているらしく、私が腕の先に視線を移すと、一辺が五十センチ程ある正四角形の小窓があった。
「……あれって、向こう側からここの様子見えるの?」
「その点に関しては問題ないよ。 マジックミラーみたいなもんだから」
「……そっか」
能鷹くんは窓に歩み寄り、そっと指を触れた。 やはり、「何でもない」という割に不安な色は横顔から消えていなかった。
放送室ブースから出た私たちは、演劇部の練習を見学するでもなく出口まで一直線に歩いていた。
アオイにちょっかいをかけようとも企んでいたが、彼女らの繰り広げる演技の迫力に気圧されて、ここはそそくさと退散するのが吉と思われた。 後で「凄い迫力だったね」と伝えておけば良いだろう。
「──ちょっと、良いかな」
だからこそ、そんな声をかけられた時、私は諌められたのだと動揺した。 いや、練習の邪魔になることは何もしていないけれど。
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