Sound 3-3

6/7
前へ
/153ページ
次へ
 反射的に振り返った先、一人の女子生徒──暗くてよく顔が見えない──が立っていた。 「何でしょう?」  私が応えると、彼女はやおら首を横に傾げる。 「私は、彼に──用があるのだけれど」 「え?」 「だから、私は能鷹くんに用があって、声をかけたのは君じゃないの」  私は、自分の表情が固まるのを感じた。  何故、彼女は能鷹くんの名を知っているのか。  その理由は、深く考えずともすぐに閃いた。  彼女は二組の生徒なのだろう。  ここにいるということはつまり、演劇部なのだろうか? 「それで、能鷹くん──」  私が黙ってしまったからなのか、彼女はさっさと話を始めてしまう。 どうやら私は能鷹くんとは無関係な人物と思われているらしい。 無論、ここで無関係を装って離れるわけにもいかず、 「あの、彼に何の用があるの?」 「君には関係のないことよ。 これは、私と彼との用事だから」 「……はい?」  ぴしゃりと言われてしまい、気の抜けた声が出てしまう。 「よく見たら、君は放送部の人よね。 たしか六組の」 「そ、そうだけど」 「だったら尚更、君を関わらせるわけにはいかない。 先に放送室へ戻っててくれる?」  その一刻も早く蚊帳の外へ出したい発言に、ムッとしなかったと言えば嘘になる。  彼女が二組であるならば、能鷹くんの苦い過去が思い出されているのではないか。 そう思って、大人しく場を離れるわけにはいかなかったのだけれど、 「……先に戻ってて」  あろうことか能鷹くんからも言われてしまったのだ。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加