15人が本棚に入れています
本棚に追加
反射的に振り返った先、一人の女子生徒──暗くてよく顔が見えない──が立っていた。
「何でしょう?」
私が応えると、彼女はやおら首を横に傾げる。
「私は、彼に──能鷹くんに用があるのだけれど」
「え?」
「だから、私は能鷹くんに用があって、声をかけたのは君じゃないの」
私は、自分の表情が固まるのを感じた。
何故、彼女は能鷹くんの名を知っているのか。
その理由は、深く考えずともすぐに閃いた。
彼女は二組の生徒なのだろう。
ここにいるということはつまり、演劇部なのだろうか?
「それで、能鷹くん──」
私が黙ってしまったからなのか、彼女はさっさと話を始めてしまう。 どうやら私は能鷹くんとは無関係な人物と思われているらしい。 無論、ここで無関係を装って離れるわけにもいかず、
「あの、彼に何の用があるの?」
「君には関係のないことよ。 これは、私と彼との用事だから」
「……はい?」
ぴしゃりと言われてしまい、気の抜けた声が出てしまう。
「よく見たら、君は放送部の人よね。 たしか六組の」
「そ、そうだけど」
「だったら尚更、君を関わらせるわけにはいかない。 先に放送室へ戻っててくれる?」
その一刻も早く蚊帳の外へ出したい発言に、ムッとしなかったと言えば嘘になる。
彼女が二組であるならば、能鷹くんの苦い過去が思い出されているのではないか。 そう思って、大人しく場を離れるわけにはいかなかったのだけれど、
「……先に戻ってて」
あろうことか能鷹くんからも言われてしまったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!