Sound 3-4

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 ♦︎  文化祭までの時の流れは早いもので、既に当日まで二週間を切っていた。  僕は依然として、二組に協力していることを伏せているのだけれど、アマネさんが気付く様子は何一つとして無い。 というのも、放送部としての当日の段取りや、その他諸々を話していくうちに希薄されているからに他ないだろう。 僕は内心胸を撫で下ろしながら、このまま平穏に、終われば良いなと願った。 「──これで原稿は完璧な状態だ。 再三に渡って新しい原稿を渡して申し訳なかったね」  今日もまた特別教室に顔を出した委員長──もはや常連と化している──が、僕に原稿を渡しながら眉を八の字にして詫びを口にする。 手元の原稿はさほど厚みに変化は無いが、言い回し等が変わっているのだろう。 「新しい、といっても多少言い回しが違うだけだから、練習に支障はない。 そこは安心してくれ」  やっぱり。 「……後はブラッシュアップするだけなのかな」 「そうね。 最初に比べて能鷹くんのナレーションは精錬されているから、これからは限界突破と表現しても過言ではない」 「……はあ」 「今日の夜も、一緒に練習していこうな」 「……ああ、うん」  今日まで、彼女からは多くのことを教えられた。 ゼロの状態から始め、僕自身、よくもまあここまで来れたものだと感慨に耽ることができる。 無論、まだ終わったわけではないのだが。  それでも、僕の見る世界というのは着実に好転しているのは間違い無いだろう。  こうして夜の約束が決まると、委員長は「今日は舞台の再下見をするんだ」と教室を出て行った。 よもや彼女一人だけが演劇に力を注いでいるのではないか。 僕はそう思ったけれど、所詮は間接的に関わっている程度なので、二組の内情など知ろうともしなかった。  それよりもまずは、新たな原稿を基に今一度ナレーション練習に取り組まねばならないのだ。
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