序、あやかしの世より

1/1
前へ
/67ページ
次へ

序、あやかしの世より

蛍火にも似た、小さな光が漂う。 光たちは自由奔放に、ゆらりゆらりと宙をたゆたう。 こぼれんばかりの星々が空を埋め、大きな満月が地を薄く照らす。 静寂に支配された、この美しい場所に。自分はあとどのくらいいられるだろう。 心残りはないはず、けれど、欲をいえば。もっとずっと長く、見守っていたかった。さらに欲をいうなら、彼が人の生を終えるそのときまで――なんて、欲張りすぎだな、と己を笑う。 残されているのは、わずかな時間だけだというのに。どんなに望んだとしても、それは覆らない。 「さて。あと少しだけ。私は、お前に何をしてあげられるだろう」 男は楽しげに笑むと、着物の袖を美しく翻し姿を消した。あの少年がいる現世へと。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加