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序、あやかしの世より
蛍火にも似た、小さな光が漂う。
光たちは自由奔放に、ゆらりゆらりと宙をたゆたう。
こぼれんばかりの星々が空を埋め、大きな満月が地を薄く照らす。
静寂に支配された、この美しい場所に。自分はあとどのくらいいられるだろう。
心残りはないはず、けれど、欲をいえば。もっとずっと長く、見守っていたかった。さらに欲をいうなら、彼が人の生を終えるそのときまで――なんて、欲張りすぎだな、と己を笑う。
残されているのは、わずかな時間だけだというのに。どんなに望んだとしても、それは覆らない。
「さて。あと少しだけ。私は、お前に何をしてあげられるだろう」
男は楽しげに笑むと、着物の袖を美しく翻し姿を消した。あの少年がいる現世へと。
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