名前は知らない

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自由を手にすべく行動した人々は、願って埋めた。 何かを成すために、いや、成し遂げなくても良い。何者かから逃げるために。 祈るために。随分と遠くへ来たのだと、それは、おそらく生きた痕跡だったのかもしれない。 しかし、わたしは違った。わたしは、妻を見つけるために埋めた。いつか、いつか、この亡骸を見つける目印に墓標にと、わたしは祈りを込めた。 その土偶が出土された××層から、発掘現場は急遽広げられることが決定した。 ばらばらに、ぱら、ぱら、それは種でも撒き散らすかのように。土に混じった人骨が数点見つかった。 わたしは、氷のような凍てつく風を身に纏いながら、静かに洗浄する。 わたしの愛も水に流れていく。
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