川縁にて

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待ち合わせの公園は、彼の家から少し離れた場所にあった。 彼は、大通りを忙しく往来する車を気にも留めず、軽快な足取りをそのままに、背中を押す心地よい秋風に身を任せ、足を運んでいた。 燦然とした銀杏並木が、彼を公園まで案内しているかのようだった。 彼の足下には、コンクリートの灰色に美しい黄色が乱れ、散らばっていた。 幸福を感じる時の黄色は、いつになく優しいと彼は思った。 香織との再会に思いを馳せていると、公園まではそう遠くはなかった。 気がつけば、彼は既に公園にいた。 約束の時刻まではまだ少しあった。 彼は公園の片隅で寂しそうにしているベンチに腰を下ろし、砂場で無邪気に遊んでいる子供たちを、ただぼんやりと眺めていた。 そうしていると、彼は遠い日の思い出ー香織と遊んだ頃のことを追憶せずにはいられなくなった。 彼がまだ小学生だった頃、2人はよく、学校の帰りに、公園で遊んだものだった。 互いに家が嫌になると、公園に集まることもあった。 そんな時は、ジャングルジムの上で、まだ薄い月を見上げながら、彼は彼女に自分のありのままを打ち明けるのであった。 彼女が本音を語ることは無く、彼の話を相槌をうちながら聴いているだけであったが、彼はそうした彼女から、安心を得て、また、自分を曝け出すことで心地よさを覚えて、家へ帰ることができた。 砂場は2人のお気に入りの場所だった。大きな砂の城や、バケツをひっくり返しただけのケーキ、富士山など、色々なものをつくるのに、2人は夢中になったものだった。 大抵は彼がつくるものを決めるものだから、彼は申し訳なく思って、ある日、彼女につくりたいものを尋ねた。 彼女は「和也が決めていいよ」と、いつものように微笑みながら、穏やかな口調で答えた。 彼は納得がいかなくて、しつこく彼女に尋ねた。 すると彼女は、「じゃあ、おままごとがしたい!」と、いつになく嬉しそうに答えた。 彼は、やっと彼女の本心を聞けたことが嬉しくて、彼女の進めるおままごとを、全力で楽しもうと努めた。 しかし、いつになく楽しそうにしている香織とは対照的に、彼はおままごとを楽しむことができなかった。 その時彼は、いつも自分の遊びに何も言うことなく付き合ってくれる彼女に感心し、彼女の優しさに初めて気づいたのだった。 その時見た、夕陽に映えた彼女の温かい顔を、彼はまだ覚えている。
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