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彼がそんなことを考えていると、遠くから手を振る彼女の姿が見えた。
昔と変わらず、やはり彼女は微笑んでいた。
彼は立ち上がり、彼女の方へ駆けた。
「久しぶりだね」と言う彼女は、記憶の中にいる人物とぴたり一致したため、彼はほっとした。
彼は尋ねた。
「話したいことって何?」
「ここだとゆっくり話せないからどこかお店でも行こう」
彼には不思議だった。
なぜ彼女といるとこんなにも安心できるのかが。
そしてまた、こんなにも彼女といると嬉しいのかが。
2人は公園の近くに昔からある喫茶店に入った。
席に着くと、まもなく彼女は話し出した。
「この店に2人で来るのも久しぶりだね」
この店には、中学生の時に2人で来たことがあった。
「そうだね。なんだか懐かしいね。 それで、話したいことって?」
しばらくの間が空いた後に、彼女は話し出した。
彼女の様子から、彼は話の重大なことであることを悟った。
「実は私、結婚するの」
彼は驚きのあまり、何も言うことができなかった。
時が止まったかのようだったが、時計の針は音を立てて、確かに時間を刻んでいた。
「おめでとう」
彼はやっとのことで言葉を絞り出した。
「和也には、話しておきたいと思って。 幼馴染だから」
彼女のこの言葉に、彼は少しの喜びを感じた。
しかし、それ以上になんともいえぬ感情が彼の心を満たしていた。
「もう、大人だもんね。 本当、おめでとう」
「和也も結婚とか考えないの?」
彼にも、恋愛をした経験は何度かあった。
しかし、どの相手にも彼は自分のありのままを打ち明けることができなかった。
それ故に、相手とともにいても安心感を得られず、その存在を重いものとしてしまうのであった。
いい彼氏でありたいと思う気持ちが、いつも彼の恋愛の邪魔をした。
「ないことはないけど。 まあ、取り敢えず外歩かない?」
彼はじっとしていられなくって、半ば強引に彼女を外へ誘った。
外は日が傾きかけていた。
大通りの銀杏並木は彼の複雑な心に囁くように揺れ、遠くでは風を受けて気持ち良さそうな山々に向かって烏が飛んでいた。
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