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翌日の昼休み。田中くんに誘われて新館の屋上に上がると、柏木先輩が待ち構えていた。私たちに腹を割って話す機会を設けてくれたらしい。
「俺の経験から言わせてもらえば、いずれ一つ屋根の下で暮らすことになるなら、話し合ってお互いが快適に暮らせるように協力し合えばいいと思うんだ。我慢するんじゃなくてさ。奥寺は何が不安なんだ?」
「私は……成績や容姿を先輩と比較されるのがイヤ。柏木さんのパンツと私のパンツを一緒に洗濯されたくない。私、お風呂上りはいつもすっぽんぽんでリビングで牛乳を飲んでいるのに、それが出来なくなるのもイヤ」
私がひと息に言い切ると、柏木先輩が吹き出した。
「すっぽんぽんで家の中を歩いてるの? 女同士っていいな。それはもう出来なくなると思うけど、私もお父さんの靴下とパンツは別洗いしてるし、比べられるのもイヤだよ」
実はね、と少し声を潜めた先輩は、意外なことを言い出した。
「私、小さい頃からお父さんっ子だったから、再婚なんて本当は凄くイヤだった。だから、奥寺さんとの食事会でも冷めた目でみんなを観察してたの。奥寺さんが無理してるっていうのは、すぐにわかった。まっすぐで素直に育ったんだなって感心するほどで、そんな奥寺さんを育てたお母様も素敵な人だなって思えるようになったの」
私は自分だけが悪者みたいに感じていたけれど、先輩も再婚を嫌がっていたと知って本当に心が軽くなった。お母さんを素敵だと褒めてくれたのも嬉しかった。
そんな一言にも柏木先輩の心遣いを感じるけれど、もう卑屈な気持ちにはならなかった。
「きっと一緒に暮らすようになれば、いろいろ不満も出てくると思う。田中くんが言うように、我慢しないでお互いに協力していこう?」
「はい!」
差し出された先輩の手をギュッと握った。自分が満面の笑みを浮かべていることに気付く。そのうち『先輩』じゃなく『ヒラリさん』ぐらいは呼べそうな気がした。
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