視線の先に

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 正門脇の大きなケヤキの木は、【(けやき)ノ森高校】というウチの高校の校名の由来になった木だという。一本しかないのに、どうして【森】なのかは謎。  先生たちは我が校のシンボルツリーだと言って大切にしているけれど、秋から冬にかけて大量に葉を落とすから掃除をする生徒たちは大変だ。  今日は二年一組が落ち葉掃きの当番らしい。アスファルトを撫でる竹ぼうきの音が、ザザッザザッとリズミカルに響く。先輩たちが掃いているそばから、ケヤキの葉がまた一つ二つと落ちて行った。 「また見てる? 柏木先輩のこと」  田中くんに声をかけられて、初めて彼がすぐ隣に来ていたことに気付いた。  廊下の掃除をしながらチラチラ正門の方を見下ろしていたつもりだったけれど、いつの間にか窓枠に手をついてガッツリ見てしまっていた。掃除をサボっていたことと、柏木先輩を見ていたこと。二重の罪悪感で私は答えに詰まった。 「ホントに好きなんだな」  その言い方は呆れたようでもないし、バカにした風でもない。それに救われて、ホッと息を吐き出す。  女が女を好きだなんて、気持ち悪いと言われても仕方ないのに。  ましてや、その相手を彼自身も好きだというのに、田中くんはまるで同志を見るみたいな温かい目を私に向けてくれる。大きな人だなと思う。身体も大きいけれど心も広い。田中くんはその大きな身体を屈めるようにして、窓から顔を出した。  その視線の先で、柏木先輩が落ち葉掃きをしていた。 「だって柏木先輩は私の憧れそのものだもん。優しくて頭が良くて歌が上手くて。それだけじゃなくて美人でスタイルが良くて、自分磨きの努力も怠らなくて」  ――それに私の好きな人に愛されていて。  そんな心の声は、田中くんには聴かせられないけれど。  憎らしいぐらいに羨ましいのに、やっぱり嫌いになれない。複雑な思いのこもった私の視線に気づいたかのように、柏木先輩がふと顔を上げた。  慌てて窓に背を向けた私は、とことん意気地がない。
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