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「えー、何? 二人って付き合ってたの⁉」
小声で話していたつもりなのに、すぐ前を歩いていた同じクラスの佐々木ちゃんが振り返った。
「違うよ。ちょっと相談事」
「あー、そっか。田中くんも親の再婚で悩んでた時期があったもんね」
田中くんがボソッと答えると、佐々木ちゃんは訳知り顔で頷いた。
え? そうなの? 自分が田中くんの悩みを全然知らなかったことよりも、それを佐々木ちゃんが知っていたということの方がショックだった。
コーラス部の中で同じクラスなのは、この三人だけ。社交的な佐々木ちゃんは誰とでもすぐに仲良くなれるけれど、田中くんや私はそういうタイプじゃないから自然と気が合って、二人でいることが多いように感じていた。
でも、田中くんは私には打ち明けられないことも佐々木ちゃんには打ち明けていたのかな。それって、やっぱり私が頼りないから?
というか、うちのお母さんが再婚するかもしれないなんて、私、誰にも話していないんですけど!
「どうして佐々木ちゃん、知ってるの?」
「んー? 実はうちのお母さん、笠井駅前のジュエリーショップで働いててさ。再婚カップルって結婚式は挙げなくても結婚指輪は買いに来るでしょ? 田中くんのお父さんの時もそうだったけど、先週、柏木先輩のお父さんと蝶子ちゃんのお母さんが一緒に買いに来たって言ってたから。まあ、いろいろ大変だろうなって勝手に君たちの心中を慮ってました」
「先週? 結婚指輪を?」
「そ。あれ? これってバラしちゃいけない個人情報って奴?」
「そうだよ。佐々木がペラペラ言い触らすと、お母さん、捕まるぞ?」
「ひえー、ヤバい!」
田中くんが釘を刺すと、佐々木ちゃんは両手を頬に当ててムンクの『叫び』を再現してみせた。その変顔を見ても全然笑えない。お母さんたち、もう結婚指輪買っちゃったの? 早くない?
確かに面と向かって再婚に反対はしなかったけれど、柏木さん親子との食事会には嫌々行っているという意思表示はしているつもりだった。新しい家族が増えることにあまり乗り気でない私のことを考えて、もう少しゆっくり進めてくれるものとばかり思っていたのに。
先週、指輪を買いに行ったのなら、いつ入籍するつもりなんだろう。実はもう婚姻届けを出していたりして。来週には私たちが柏木さんの家にお引越し? 柏木先輩は家事から解放されるから大歓迎? 私の気持ちだけが置き去りにされていくの?
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