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ぼくは一時間ほど前、ターミナルのすみっこでうなだれていた。考えてみればわかる話だったけど、たとえこつこつと貯めたお金があっても、十歳の子どもがひとりでチケットを買い、搭乗手続きを済ませることなんて不可能だったんだ。
ひとりでそれをやろうとしたぼくは、受付の係員に呼び止められ、すんでのところで施設に引き返されてしまうところだった。
けれどもそのとき、この夫婦がぼくを見て、こう叫んだんだ。
どこに迷子になっていたんだ、探したぞ、望。
ああ、よかった。無事で。もうはぐれたらダメよ、望ちゃん。
その二人の迫真の演技のおかげもあり、ぼくたちはなんとか家族としていっしょに機内に搭乗することができた。けれども、この人たちはいったい誰で、どうしてぼくを助けてくれたんだろう。なぜぼくの名前を知っていたんだろう。
からだがふわと宙に浮いた。すこしもぞもぞ、くすぐったいような感じ。耳がキーンとする。プールに入ったような感覚。
いよいよ、ぼくらは飛び出した。遠く光り輝くほうへと。
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