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黄昏の空が教室を茜色に染め上げている。
だが照らしているのは夕日ではない。オーロラだ。
まるで夕暮れであるかと感じるほどの明るさを放つ、不気味なオーロラなのだ。
千代香はそんなオーロラに照らされた教室の中で一人、本を読みふけっていた。
ふと、華奢な腕時計に目を向ける。
『せいぜい後三十分って所か。』
こうやって黄昏れていられるのもあと少しみたい。ソレまでにこの本を読み終われるといいのだけれど。
だが読書の時間は少し切り詰めなければならない。
校門の方から見慣れた人影が大慌てでこちらに向かって走ってくるのが見えるからだ。
その人影が校舎に吸い込まれてからしばらくすると、無人の校舎を乱暴に走ってくる音が近いてくる。
その音は曇った黒い人影となって教室のドアの曇りガラスに写った。
『宿題忘れたぁ!』という間の抜けた大声とともに今まさにドアを開けたのはこのクラスのおっちょこちょいこと長谷川和彦君である。
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