あの夏の日にもう一度

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「えっ? 嘘…… 」 私には彼の言うことがにわかには信じられなかった。 「嘘じゃない。  俺たち、別れよう」 私たちの間で、特にこれといって大きなトラブルはなかった。 強いて言えば、彼の左遷が決まったくらいで。 「何で? 遠距離がダメなら、  私、仕事辞めて付いてくし」 私は(すが)った。けれど… 「無職で付いて来られても困るんだよ。  右も左も分かんない場所で、  養っていけるかどうかも分かんないのに」 全く取り付く島がない。 「(しん)ちゃん、嫌だよ… 」 私の目から涙がこぼれ落ちた。 「こんな所で泣くなよ。  じゃ、そういうことで。  俺、さき行くから」 慎ちゃんは、慰めることも、涙を拭うこともなく、サッと伝票を手に立ち上がり、振り向くことなく去っていった。 会社近くの喫茶店。 いつもの待ち合わせの席。 なんだか景色が霞んで見える。 今日は黄砂が飛来するって、ニュースで言ってたもんな。 咲き始めた桜も心なしかくすんで見える。 今年も一緒にお花見したかったな。 会社の人もよく利用するその店でいつまでも泣いているわけにもいかず、私はハンカチで涙を拭うと、のろのろと立ち上がりその店を後にした。
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