第一話 雨のホテル

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第一話 雨のホテル

ザー ザー 「わりいな」 「いや、助かった」 バン!  走り去る車に手を振った。 ピカーッ、ドーン! 「くそっ!」   ひでえ雨、さっきまで晴れてたのに、この町に入った途端このざまだ。すぐそばにある家の軒下に入った。 「まったくついてねえな」   仕事がなくなった、この不景気で、どこもかもが暗い影ばっかし落としてる。後二カ月もすればクリスマス、何とか持ち直せると躍起になっていたのに。 くそったれが!   給料踏み倒され、挙句にアパートもおんだされ。あるのはこの腕と、隠しておいたキャビアのビン二つとレバーペースト、パンも無けりゃ、クラッカーさえもねえ、どっか雇ってくれねえかな。    田舎へ帰り、墓参りをしてから自分の道を決め直そうかとヒッチハイクでここまで来たが、人っ子一人いやしねえ。歩くしかねえか、大きな通りなのにな? ピカーッ!ゴロゴロー! 「ヒェー!」  降りが強くなってきたとにかく今夜のねぐらを探さないと?辺りを見回した。  霧で霞んでいた先に分かれ道が現れた。  目と鼻その先、そこへ走って行って見上げた。    へー二件もホテルがあるんだ。  サン・ホテル、でっかい太陽のマーク、その大きな看板の下には今にも朽ちそうな木の看板、ロイプリンス?ホテル?だろうな、読み取れもしない。それじゃあ、まずはこの棒で倒れた方は、ッと右ね。  見上げたホテルは近代的には見えるが・・・  見た目は普通よりも下かな、まあ俺のいた、くされホテルより良けりゃいいさ。  雨に濡れた体のままフロントへ、そこには男が座って新聞を読んでいた。 「部屋は泊まりで一万円だ、雨降りで満室、廊下でもいいなら五千円でいいぜ」  ちらりと見ただけで、顔すらあげもしない、なんていう横暴さ、俺の前にも客がいたのか床は濡れている。拭きもしない。  悩んでいると次の客、いかにも高そうなスーツを着た紳士に男は態度を変えた。  俺の時は立ち上がる事もなかったのに、すっと立ちやがった。 「いやー、これはこれはお客様、あいにく部屋はいっぱいでして、ちょっとお高くなりますが二万円のお部屋と、一万円のランクが下の部屋をおひとつでしたら支度をいたしますが」  廊下はなしかよ、ふん、フロント前の水たまりを見ながら俺はそのままそこを後にした。  くされホテルは何処にでもあるか、仕方がねえや。  大きな道を渡る、雨は幾分小降りになってきた。体が冷える、早く体を拭きたい。  古いな、暗いしやってるのか?  ドアを開けた。  ギーッ。  誰も居ない。  まあ、古くてもきれいにしてある、俺の前にも客がいた、しっかり拭き掃除をした跡がある。 「こんばんわ」 「いらっしゃいませ♡」 「ん?」誰もいない? 「いらっしゃいませ♡」 「ここ、フロントだよね?」  中をのぞくが誰もいない、大きなベルをチンとならしてみたが誰も現れる気配がない、忙しいのだろうか? 「いらっしゃいませ!」 「あのー、どなたかいらしゃいませんか?」 「目の前にいるんですけど!」 「ダメだ、空いてると思ったのに」  ハア、ハア、もう疲れちゃった。 ヒューウー ギィィィィィー バン!  後ろを振り返った。 「ウワー、びっくりした、扉が閉まっただけかよ」 「い・らっ・しゃ・い・ま・せ♡‼ハア、ハア」  何か聞こえるんだけどな。  目の前に、何か白い靄のようなものが見える。 「うわっー!」  タ、タオルかよ―まったく脅かすなよ。  使って下さいとばかりにきれいに畳まれたタオルの山が目の前に現れた。  すみませんお借りします。 「どうぞ♡」 「ん?声がしたような?」 「う~ら~め~し~や~・・・あの、そんなに存在感ありません?」 「・・・。」 「お泊りですか?聞こえないのかな?」  目の前に、ペンとメモが降ってきた、名前を記入するところがある。 「これって、泊まれるのかな?」  こりゃだめだ。  仕方ない、いつもので行くか、スティーブン様! 「ワ、ワ何だこりゃ?」  白い手袋がペンを握り動き出した、メモの空いたスペースに前金の文字、一泊、食事なし、千円、ここに置いてください。 「ここに置けだ?おもちゃ?誰も出てこないのに、金だけ置けってか、まあ、安いし、外は雨も降ってるからこの際、お邪魔させてもらおう」  お金を、メモの上に置いた。
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