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千円にしちゃ、めちゃくちゃいい部屋だな。
「こんなきれいな部屋に千円でいいんですか?」
「ええ、私がこんなんなんで、お客もいつも素通りなんです」
それでも今日は雨ふりで二部屋にお客がいるという。
彼は背伸びをしてドアノブを開けようとするのでついつい手を出した。
すみません、こちらがバスで隣がトイレになります。
今度は何やら棒を手にした。
ぱちぱちと明かりをつけている、慣れたもんだな。
今度は棚を開けると引き出しのようなものを引っ張り出した。
それによじ登っていく。
「おい、おい、これか?」
「ああ、ありがとう存じます、タオル類はこちらにございますので、最低限の物しかございませんがごゆっくりどうぞ、何かありましたらフロントのベルをお鳴らしください」
これはチャンスかも?
「あの、もしよければ、俺を使ってみる気はありませんか?」
俺は料理人で、仕事を探している最中だと言った。
「でも、ここはちょっと」
ちょっと?
「わかりませんか?」
・・・はい・・・?
「ここ、出るんです」
何がですか?
「え、さっきの見ていませんか?」
みえる?なにがです?
「下に変な格好をした人がいっぱいいたでしょ?」
ええ、いましたね。
「幽霊ですよ、幽霊!」
「エー、いまどき、この世の中にいるんですか?まったく、生きてる人間の方が怖いですよ」
「え!そうなんですか?」
「そうでしょ?だって俺、住むとこも職も一日で無くしちゃいましたから」
「ウソ」
「ウソついてもねー」
「あのーそれは疫病神って言う部類ですか?」
俺は噴出した、俺が疫病神?それなら前のホテルはとっくに廃業してるよな。
「さあね、わかんないけど、店は大繁盛してたし、家賃もちゃんと払ってたのにね、まったく、たった一度ですよ、ウェイターが注文間違えただけで、何で俺が首なんだって、頭来るでしょ」
「え、そんなんで首?」
「そうです、それだけで、この、三ツ星シェフの俺様が首です」
ぐー!
「腹減っちゃって、あのー、パンでいいんでありますか?」
あると言う、キッチンへ行ってみますかと言われぜひと答えた。
部屋の中を一通り説明された、古いが結構いい部屋じゃねえか。
一度置いたカバンを手に階段を下りながら下をのぞけば、幽霊なのだろうかと思ってしまうほど、ちゃんとした人間のような人たちが酒盛りをしているんだけどな?
オーナーの後をついていく。
小さな丸い窓のついた扉を開いた。
「ほう―」
真っ白な、きれいな厨房は、いま流行の物で、それもついさっき作り変えられたような新しさがあった。トントントンと三段しかない階段を下り走りだし、その調理台に手をかけた、真っ白な大理石でできた調理台をさわった。
「すげー、最高級のキッチン設備だ、だけどなんで埃だらけ?」
「すみません、とどかないんです」
あー、この靴跡、そうか上に登って・・・
うんうんと頷いている。
「よし、じゃあ俺が何か作ろう、なんかある?」
「えっと、パンはあるよ?野菜も少しある、冷蔵庫見て」
大型の冷蔵庫を開けた。
下の方にこじんまりと食材がある。それを出して並べた。
「オーナーさん、俺、ここに置いてくれないかな?」
お客が来ないからお金がないんです。
金かー・・・
とりあえずは寝ると事食べるのだけでも提供してもらえれば給料は後でもいいと返事をすると、彼は、んーと考えてしまった。
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