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改札を抜けてステンドグラスが見えてくると、俺はニット帽とマスクを外して軽く髪を整えた。
『レンタル彼氏』やってるから。
今までデートした子に偶然見つかって声かけられたくない。
白と水色のボーダーのワンピース、ふんわりとしたブラウンのセミロング。
ステンドグラス前の手すりに体を預けてスマホを見てる、たぶんあの子。
顔は上の下くらいのかわいい系。
「はじめまして、高原です」
いつも通り、笑顔で控えめに声をかける。
「あ、はじめまして。葉月です」
彼女で正解だった、ひとつクリア。
スマホから顔を上げた葉月ちゃんは緊張した様子を見せず、俺同様笑顔で言葉を返してきた。
彼女はスマホをハンドバッグにしまうと、かわりに白い長封筒を取り出す。
「料金先払いですよね。確認してください」
「ありがとうございます」
まだ彼氏らしさは見せずに丁寧にそれを受け取った。
無地の封筒に『高原紘杜様』と宛名、中には現金が無地の便箋で包まれている。
ちゃんと届出してるお店に所属して、お金を受け取り一定時間彼氏のフリをする仕事。
たぶん、今日の仕事はやりやすい。
彼女は気づかいのできるあっさりした子。
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