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 葉月ちゃんはこの近辺のオフィスビルで販売促進の仕事してるOLさんだそうだ。  可もなく不可もない職場で、大学出てから代わり映えのない日々を送っているという。  俺は今現在フリーター。  レンタル彼氏の他に短期バイト、イベントスタッフや店舗のオープニングスタッフをしたり、精密機器や食品の工場に行ったりしてる。  こういう人間もいるんだよっていう程度の世間話、大変だねくらいの反応期待して話したんだけど。 「ホントいろんな業種体験してるんだね。ヒロトくん急にうちの会社に来たとして、なんでもまかせられそう」  彼女は予想外に真面目な顔をして、ひとつうなずいた。 「社交的でいろんな状況に対応できる能力も仕事する上では結構利点だよね。フットワーク軽そうで仕事も私生活も充実してそう」  今の状況、全力でやってはいる。  でも自分ではこのままではダメだと思ってた。  親もちゃんとした仕事に早くつけと言うし、友人からは『継続』とか『責任』がないのがうらやましい的なこと言われる。  なのに葉月ちゃんは、今の俺を肯定してくれた。  俺の状況全部を理解してるわけじゃない。  けど、うわべだけですべてを否定しないでくれる。 「そう言ってもらえるの、嬉しいな」  嬉しい俺が彼女に対してできることは、今を楽しんでもらうことくらい。 「あ、食べさせ合いっこだから俺にも『あーん』ってして欲しい」 「そうだね」  葉月ちゃんはスプーンを手に、黒蜜のかかった白玉を俺の口に運んだ。  一応嬉しそうにする、そういう体験の場だから。  だが彼女の口から出た感想は、 「餌付けしてるみたい」  だった。 「コイの?」 「ヤギかな」 「ヤギなの? なんでだよ」 「あはは、なんとなくイメージが」  全然うわついたデートじゃないけれど、葉月ちゃんは楽しんでくれていた、と思う。
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