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冬の必需品
まだ11月だが、私の住む地域は真冬には豪雪に見舞われる寒冷地。10月末に初雪が観測されることすら珍しくない。
そんな地域で母と祖母、高2の私と5歳の妹、4人の女系家族で60年以上ここに建つ家で暮らしている。
今年も例年並みの寒さがやってきた。足裏と擦れてなめらかになった床板は素足で歩くと隙間なく密着するので、一歩歩けば片足が凍りそうだ。靴下とスリッパは欠かせない。
だから学校から帰ると、私は全速力で縁側を滑って居間に駆け込み、冬の究極の癒やし――こたつで足の指と手先を解凍する。
大体こたつには、早く幼稚園から帰宅する妹が顔ギリギリまでうずくまって玩具で遊んだり絵本を読んでいる。
私は体温を回復させたら、夕飯の時間までそのまま宿題をしたりテレビを見たりする。
それに、結構な頻度で自分の遊びに飽きた妹がこっちにちょっかいをかけてくる。
幼稚園の年中だからまだまだ遊びたい盛りなんだろう。私も可愛い妹が大好きだ。
今日も私が帰宅してかじかんだ手を暖め終わるころ、こたつの反対側で寝転んでいた妹が天板の下に潜り込んで、突然私の足をくすぐってきた。
完全に油断していたから触られた瞬間、全身の神経をくすぐったさが駆け巡った。
妹の猛攻に悶え、笑い転げる私。
「やめて、もうやめてぇ!」しかしそんな言葉でやめるわけがない。
このままでは笑い死んでしまう。しつこくくすぐり続ける妹に反撃しようと、私は両手をこたつの中に突っ込んで妹の片足を捕獲した。今度はこっちの番だ!
姉の意地とプライドの限りを相手の足裏に注ぎ込む。
「キャハァ、ハハハハッキャハハハハ」
悶絶しつつも幼い甲高い笑い声が止まない。いつもはもっと落ち着いた声で笑う妹もはしゃぐとこんな声を出すんだと初めて知った。こたつの中で暴れる膝や肩が何度も天板を弾ませる。布団はまるで鳥の羽ばたきのように上下に広がる。5歳児の興奮はちょっとした災害みたいだと思った。
それでも私はくすぐりをやめなかった。思いの外、他人が自分の手で文字通り笑い転がされている様子は、楽しかった。1分以上くすぐり続けていた。
その時。私の背中側にある居間の出入り戸を誰かが開けた。外気に冷やされた縁側の空気がなだれ込む。
「あ! おねえちゃんおかえり!」
挨拶と共に中に入ってきたのは妹だった。
ただいまーと返す私。
――――あれ、妹?
じゃあこたつの中で私が掴んでいるこの足は?
漠然とこの事態について考えながらもくすぐる手は動いていた。
しかし、先ほどまでの元気な甲高い声はもう聞こえない。
それに気付いたとき、熱いこたつの中なのにこの足は異常なほど固く冷たく感じた。
妹が後から私の横に入ってきた。
顔を見る。紛れもなく本当の妹だ。
さっき私の足をくすぐってきた妹、そして今私がくすぐり返している妹。
そういえば、顔は確認してなかったなぁ。
くすぐる手をやっと足から離すと同時に総毛立った。
こたつで暖まったはずの身体は、開いた毛穴から一気に吹き出すおびただしい汗で冷え切った。
妹は私の横で、あははと笑いながらテレビを見ていた。
いつも通りの、年の割に少し大人びた笑い声だった。
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