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ウィッチの帰還
ペトロニーラは密かに落胆した。
けれども表情に出すことはしなかった。それは彼女が感情をあまり表に出したがらない性格なせいでもあるが、それよりも目の前の少年に罪はないと思ったからだった。
夜が産声をあげた頃、扉がノックの音とともに軋んだ。彼女が燭台を片手に家の扉を開けた時、森の中にひっそりとたたずんでいたのは、七、八歳ほどの華奢な少年だった。
「こんにちは」
ペトロニーラは静かに挨拶した。
「こんにちは」
少年は彼女を見上げながら答えた。少年の頭頂にはベージュの髪が生えていたが、毛先に近づくにつれてブラウンが優勢となり、伸びるにつれて髪色が濃くなっていくようだった。長い前髪からはアイスブルーの瞳がちらちらと見えた。
「小さな客人よ、どのような御用でいらっしゃったのですか」
「お姉さんにここに来るよう言われました」
「お姉さんとは」
「アリスという方です」
ペトロニーラは僅かに動揺した。
少年が口にしたのは待ちかねている主人の名前そのものだった。
ペトロニーラは改めて少年の姿を頭のてっぺんからつま先までじっくりと眺める。
少年は頭巾のついた外套代わりの黒い布切れで、首元から足首までをきっちり覆っている。足には底の分厚い農民靴を履いていた。
森を歩き慣れていないのか、外套から出ている体のあちらこちらに、枝のひっかき傷だの泥はねだの、森の住民の手荒い歓迎を受けた跡が残っている。
少年が森の寒さに震えているのに気づき、ペトロニーラは燭台を高く掲げて声をかけた。
「主の客ならば歓迎いたしましょう。どうぞお入りください」
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