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パンとにんじんのスープを手にペトロニーラがテーブルまで戻ってくると、少年は家の中の様子に目を白黒させていた。座れと言われた椅子からは一歩も動かず、物珍しそうに視線を漂わせている。
アリスの家は小さくみすぼらしいログハウスの外見に反して、中は広くて天井が高く、おまけに部屋数も多い。棚は上品な調度品や高価な宝石で埋めつくされていた。
扉から入ってすぐの部屋は客間兼調合部屋で、圧倒的に後者の用途で使われることの方が多かった。
そのためテーブルの上には様々なハーブの切れ端が散乱し、さながら家畜の餌場のようになっていたが、少年の目の前だけは半円型にものがどけてあり、羽箒でさっとひと掃きされたように綺麗だった。
壁には、横に長い長方形の引き出しのびっちりついた棚がでこぼこと並び、葉っぱがはみ出していた。道具の置かれた棚もあり、木のスプーンや鈍色の瓶が静かにたたずんでいる。
どれもが無秩序に見えてその実整然としていたが、どこか寂しそうにも見えた。
ペトロニーラが戻ってきたことに気づくと、少年は彼女の方を見た。はじけんばかりの好奇心に満ちた瞳がそこにあった。
「お腹が空いたでしょう、おあがりなさい」
そう言いながらペトロニーラが彼の前に皿を置くと、彼は食い入るようにスープの中身を見つめた。彼の喉がひとりでにごくんと鳴った。
そのまま食べ始めるかと思いきや、少年はペトロニーラの方をちらっと見た。
「……お肉も食べていいんですか」
「その食事は全てあなたのものです」
少年の目が隠しようもなく輝いた。
彼は食事の前で姿勢を正すと、祈りの言葉を捧げようと両の手を持ち上げた。自然な動作だった。
「ここではお祈りは必要ありません」
ペトロニーラは厳かに牽制した。
少年ははっとしたように動きを止めた。ばつが悪そうに肩をすくめ、彼女の顔を見ないまま、食事に手をつけた。
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