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それからは早かった。
少年は皿ごと平らげる勢いで食事をむさぼった。ペトロニーラは正面に座って、その様子をじっと見ていた。
やがて、パン屑さえも皿の上から姿を消すと、ペトロニーラは口を開いた。
「あなたはどこで我が主にお会いになったのですか」
少年は食事にがっついたことを今更恥じるように顔を赤らめ、姿勢を正した。口の端に野菜の皮切れがついていた。
「……ぼくの家をお姉さんが訪ねてきたのです。そしていくつかお話をしました」
「あなたの家は教会ですか?」
彼女は先ほどの少年の行動を頭に浮かべながら尋ねた。少年は少し怯えたような顔をしたが、小さくうなずいた。
「そうです。ぼくはシセイジで父はなく、母は旅のショウフとして傭兵さんたちと一緒に行ってしまいました。それからは教会で育てられました」
ペトロニーラは小さくうなずく。少年の出生自体は珍しいことではなかった。
そんなことより、主の行動が不可解だった。
「主は教会に何の御用だったのでしょうか」
「わかりません。教えてくれませんでした。お姉さんはぼくの話を聞いてばかりで、自分の話をあまりしませんでした」
ペトロニーラが考え込むのを、少年はしばらく見つめていた。やがて膨らみ続ける好奇心に耐え兼ね、そろそろと訊いた。
「あの、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「……あなたは、お姉さんの家族なのですか」
「私はアリス様の忠実なしもべ。アリス様に使われ、アリス様のために生き、アリス様のために死ぬ使い魔です」
少年は気圧されたように身を後ろに引いた。
「家族ではないのですか?」
「使い魔です」
ペトロニーラは冷徹に言い放った。少年は口の端の食べ残しを舌でぺろっと舐め取った。
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