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Day3: Day Beam to Dear Dream
彼女は、いた。
頭痛やめまいがして体に力が入らない。
でも止めないと。
その一心で僕は、彼女を抱きしめた。
背中越しに肩をつかんで、彼女がどこへも行かないようにしっかりと抱きしめた。すると、彼女も僕の背中に手を伸ばし抱きしめてきた。
「…来てくれたんだね。ありがとう。わたしを…殺してくれるのかな」
僕は首を横に振った。
「わかった。じゃあ、お話しするね」
そう言って彼女は続ける。
「実はね。わたしの家は吸血鬼の末裔なんです」
突拍子のないことで、僕は呆けてしまった。
「ふふ。信じなくていいよ。でもね。20歳の誕生日に、家族総出で人を一人殺しちゃうのは本当。それが嫌で嫌でね?わたしは今日逃げてきたの。なんでも殺さないと吸血鬼として一人前と認められないとか?どうでもいいことだけどね」
そこまで聞くと、僕は一つの可能性に思い当たった。
「自殺ってまさか…」
「このまま…」
彼女は消えるような声でつぶやく。
「このままここにいるだけで十分。ここは日当たり良好だからね。だからあなたはなにもしなくてもいいの。でも本当に最期のお願いを聞いてもらえるのなら。
このまま抱きしめていてほしい」
僕は強くうなずいた。抱きしめる腕に力がこもる。
彼女を止めるつもりでここまで来たのに、今は抱きしめることしかできない。
それは恐らく、彼女の言葉が真実だと信じたからだ。
こんなに小さな体が震えている。死ぬことは怖いに決まっている。でも、それでも、自分の気持ちから逃げなかった。
とても愛おしいと感じた。
「ごめんね」
彼女はまた泣き出した。
謝るのは僕の方だ。何もできないのだから。僕が出来ることなんて、このつまらない人生をあげることくらいだ。
彼女が望むなら、好きなところに行って、好きなものを食べて、好きなことをする手助けをしてあげたかった。
「ごめん…ごめん。ごめんなさい…」
彼女は泣きながら謝り続ける。
「僕の方こそ。何もしてあげられなくて、ごめん」
「違うの。私は悪い子なの…ひとりで死ぬのが怖くて…」
「…わかった。僕も一緒に、死ぬよ」
「…ふへ?」
彼女は変な声を出した、それに初めて見る顔だ。最期に好きな人の新しい顔が見られてよかった。
「君が死ぬのを見届けたら、僕も、死ぬよ。ちょうど、この橋から飛び降りたら、死ねそうだからね」
そう言うと、彼女は大声をあげて泣き始めた。
言葉を発したかと思えばごめんなさいと言うばかりだった。
気にしなくていいのに。僕の人生なんて、君の寂しさを紛らわせられるならお釣りがくる。彼女は拳を固く握ったまま泣いていた。
ずっとずっと。朝焼けが広がり、日が昇ろうとしてもずっと泣いていた。
「ありがとう。君と出会えて、僕は幸せに死ぬことが出来るよ」
「…いえ、こちらこそありがとうございます。あなたと出会えて、わたしは幸せになれました…また会いましょう」
「ああ。また」
次に出会うとしたら、三途の川にかかる橋の上だろうか。
そんなことを考えながら、
僕たちは灰となって
永遠に運命を共にした。
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