fine

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 容態も安定し頭の中の整理がついた僕は、妻にどうしても聞きたいことがあった。 「……ピアノが弾きたいんだ。」  妻はすっとんきょうな顔をしたあと、何を言い出すかと思えば、と続けた。 「弾けばいいでしょ。」 「でも、ピアノが……。」 「手頃な電子ピアノでも買えばいいじゃない。グランドピアノとかいい出したら怒るけど。」 「いいの?」 「いいわよ。あなたが自分の希望を言うなんて珍しいんだからさ。」 「……ありがとう。」  含みのある妻の言葉に僕の胸が少しだけ痛んだ。僕の頬を伝わる涙の感触は乾くことはなかった。
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