弾けなくなったピアニスト

coda

　目の前にぽっかりと口を広げた孔は、どこまでも深く、深く地の底まで続くかのように。

　光が届かないその中は、まるで何かを隠すように漆黒の霧を纏う。

　闇に包まれたその先には、何か大切なものがあるようで。

　喪失感に苛まされた僕は、また必死に手を伸ばす。

　すると僕は決まって足を滑らせ、まっ逆さまに孔の中に落ちていく。

　漆黒の闇を落ち行く中、そこに悲壮感などなく、それどころか安堵の気持ちで満たされていく。

　まるで、染み入る闇が全てを黒く塗りつぶすように。