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「帰って」
「咲良?」
誠真は意味が解らないと言った様子で、まだ私の機嫌をとるように触れてくる。
「さわらないで!」
ポロポロと涙が零れ落ちる。とうとう我慢していた雫がとめどなく溢れた。
「咲良……」
初めて見る、驚いたような、悲しみのよう、複雑な誠真の表情が目に映る。
どうしてそっちがそんな顔をするのよ。
そうは思うも、これ以上一緒にいても辛くなるだけだ。
その日から、卒業まで私は誠真んと話すことは一度もなかった。
誠真が卒業してから、風の噂でアメリカへいったことを知った。
大企業の跡取りとか、私をやっかみから守りたかったんだよ、とかそんな慰めの言葉などを聞いても何も変わらない。
誠真はもういない。
私の淡い淡い恋心はこうして、終わりを迎えた。
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