貴方の名前は

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歩いている。足が痛い。長いスカートのスソから靴が見える。 (石畳みのようなゴツゴツしたところを歩くのに、どうしてこの靴を履いてるんだろう。私こんなスカート持ってない。この靴も持ってない。) 隣に人がいる。顔は見えない。景色はグレーに見える。木が見える。スカートが赤く見える。 (スカートは赤だ。スカートは赤だった。他の色は、 よくわからない。また同じ夢を見ている。) 蝶が足元から目の前をゆっくりと通り過ぎて富士子は目を覚ました。幼い頃から何度も見ている夢を又見た。いつもだいたい同じだけど時々遠景が見えたり匂いや風を感じたりする事もある。今日は色が見えた。夢の中で富士子は床を擦って歩くほど裾の長いスカートを履いている。石畳みの上を歩いているみたいで足が痛くてたまらない夢だ。 「そんなところを歩くのなら、なんでそんな靴を選んだの?」 と、幼い富士子はその夢の女の人にいつも問いたかった。だって今は誰もはいていないような裾の長いスカートをヒラヒラして歩くのだからきっと私はお金に苦労はしていなかったのだろうと思った。
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