貴方の名前は

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繰り返し見る夢は他にも色々あるけれども、この夢は痛みを伴うので富士子は嫌いだった。現実の生活でさえも両親から虐待されてキツイばかりなのに、せめて夢の中だけでも幸せな夢を観させて欲しいと富士子はいつも願っていた。そう夢の中の私は裾の長いスカートを履いている。とても歩きにくい。 (もしかしたらスカートではなくてドレスなのではないかな?) そう思ったのは幼稚園のお遊戯会でシンデレラの意地悪なお姉さん役のドレスを着せてもらった時だった。 「可愛くもなんともない、どちらかといえばブスなのになんであの子がシンデレラなの!」 と、富士子の母親は家で文句ばかり言っていた。シンデレラ役の女の子はお金持ちの薬局のお嬢様だった。その子は優しい子で富士子はその子が大好きだった。 富士子の母親は富士子に全く関心が無く、幼稚園の会合にもお遊戯会の準備にも一切参加しない。富士子の母親は自分に得にならないと判断したら全く無視した。お遊戯会の当日でさえも見に行かないのだから、その娘が意地悪な娘役になるのは当然の事だろうと今なら思う。でも幼稚園の頃は嫌だった。役とはいえ優しい女の子に意地悪を言うのが辛かったのを今でもはっきりと覚えている。
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