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「なぜ、助けたのです」
「気に食わなかったか?」
「あなたは、あの芸人どものことが嫌いではなかったのですか?」
「芸人に非は無かろう」
「しかし。銀まであの女に与えるなどと」
「つべこべ言うな。うるさいぞ」
「……」
「田旭」
「はい」
「龍翠という女は、何か違う」
「何か?」
「ああ。興味深い人物だな」
「呂江様が、そう言われるほどの?」
「実際に接してみれば、わかる」
「……へえ」
「お前は、化け物と言っていたがな」
「そうですね」
「興味は、ないか?」
「正直、どうでもいいです」
「……そうか。お前は別のことで、頭がいっぱいだものな」
呂江の言葉には、何も返さなかった。雨の匂いが辺りに漂いはじめているのを、田旭は知らず知らずのうちに感じていた。
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