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龍翠はますます、本物の芸人らしくなっていった。そしてついには、興行の進行役も任されるようになった。たったの、一年で。自分は、もう奴の師である必要はなくなっていた。それがどことなく怖かったから、俺は龍翠に身の回りの世話をさせることにした。
「身体を、揉んでくれ」
「使用人なら、いくらでもいるでしょうに」
「お前、分かっていないな。万が一、一座から追い出されることになった時、世間知らずじゃ困るだろう」
「それで、使用人としての仕事も覚えろと」
「人の世話をする。これは、いい勉強になる」
「はあ」
渋々、龍翠は俺の身体にそっと触れた。何かが熱くなるのを感じながら、俺は深く息をついた。俺の中の、何か大きなものが動かされている。この、龍翠という女によって。そう思うと、しばしば我を忘れそうになった。この感情がなんというのか、そもそも名前があるのかなんてことは、考えなかった。いつから、この感情に自分の身が侵されていくようになったのか。それについても、やはり考えなかった。
「なあ、龍翠」
「はい」
「お前は、なんなのだ」
「質問の意味がわからない、と言っているでしょう」
「俺にもわからん」
「おかしな人です」
「龍翠」
「はい」
「ここも、頼む」
「……」
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