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第五話
気付けば、白藍の部屋にいた。何故またここなのか、というのは考えないようにした。別に、もうこんな事をして彼女から好かれようとは思ってはいないのだが。
「それにしても、こわかったねえ」
白藍がしみじみと言う。俺は、手に持っていた茶を白藍に飲ませながら、
「それにしては、随分と強気だったではないですか」
と言った。
「表だけさ、強気だったのは。扈珀はいつも通りだったけど、今日の紅隆様は……何か別の、こわさがあった」
「まあ、確かに」
「なんだか、見透かしているようだったね」
「何を?」
「犯人を」
冗談で言っているのだ、と思った。だが、今思い出してみると……そうとも、言い切れないような気がする。
「なぜ、そう思うのですか?」
「言葉には出来ないよ」
「本当に見透かしていたとして、誰を?」
「わざわざ全員を集めるくらいだからね。まさかとは思うが、芸人だったりするのかもな」
「ということは」
「……彪林、この話はもうよさないか。自分で話を持ち出しておいてなんだけど。あたしも深く考えたくはないんだ、面倒事は嫌いでね」
「──そうですか」
それ以上、話すことは何もなかった。しばらくの沈黙が続く。部屋に使用人が入ってきたのを区切りに、俺も静かに部屋から出て行った。
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