アーモンド

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アーモンド

おなじみのドラムロール。 「1位は……アーモンド!!癖になる香ばしさと噛み応えのある歯ごたえ、チョコレートとの組み合わせは抜群のアーモンドはやはり大人気ですね。アーモンドチョコ、アーモンドミルクってのもありますし、ほかの食材とも相性ばっちりですし」 順当な結果よね。2位がマカダミア、3位がピーナッツ。情報源は聞きそびれたけど、チョコレートメーカーの思惑もあるのかもしれないな。それぞれチョコレートの相性がいいもの。でも私はカシューナッツが好き。他の食材?相性?……いや嫌いかも。ラジオから流れる白石恵という歌手の「アーモンド」を聞きながら考えを巡らせた。ボリュームをあげ、信号を右折し、まっすぐ支店に戻る。普段は、適当な昼食を外で食べるのだが、今日は打ち合わせのために、弁当を持ってきた。  戻ると、すでにミーティングルームには数人集まっており、机にあるカタログを囲むように座り、意見を出し合っていた。後輩で海外事業部の美咲は近づいてくる私に気づき手をあげながら、意見していた。 「今年はこっちの手ごろなのでいいんじゃないでしょうか。さすがに去年の世界の希少なコレクションシリーズは凝りすぎたと思うんですよ」 「その分、見返りは大きかったでしょ?ああ、加奈ちゃんも帰ってきたの。ちょうど今、いくつかの候補に絞ってて…今無難に行こうかと……、でもこのカシューナッツチョコとか意外と珍しいよね。どう思う?」 「こだわりのチョコは、もちろん食べる機会もないでしょうけど、男性陣もこれに何を返せばいいんだって気を遣うと思いますよ。それもいいですけど、さっきラジオでやってました。ナッツではアーモンドが一番人気なんだそうです。ああ、このアーモンドチョコとかいいんじゃないでしょうか」 「あ、ホント。いいかも。しかもこれ、この前うちのパッケージに関わったデザイナーじゃない?高級感もあるし……じゃあ今年は、これにしようか」 アーモンドにキャラメル、チョコをくぐらせ、ココアがまぶしてあるアーモンドチョコだった。美咲の指していたカシューナッツチョコなんて即却下だ。   その日の夜、美咲と近くにできた中華料理屋に行った。 「お待たせいたしました。酢豚と小籠包、カシューナッツ炒めでございます」   「結局、あの先輩たちは、男性陣にあげたいんじゃなくてアピールがしたいんですよね。女子感というか。1か月前に会社の男性人にあげるチョコ考えるなんて気合入りすぎですよー。みんな結婚してるから若い子にキャーキャー言ってもらえる唯一の楽しみっていうか……。で今年、加奈子先輩はバレンタインどうするんですか?」 「いつもと変わらず何もないよ。美咲は彼になにあげるの」 「重大発表です。私は、先週彼と別れました」 「え、なんで」 美咲はコロコロ彼氏が変わる。どう生きていたら、そうなるのか私には永遠の謎だ。コロコロ変わるのに、重大発表としているということは美咲自身は、その自覚はないし、それなりに本気だったんだろう。 「フラれたんです。でもいいんです別に。そんな感じだったんです」 「ふーん。めずらしく続いてるなとは思ってたけど」 「まぁその日は、少し感傷に浸ってたんですけど。でもです。次の日、なにこれ運命的なことがおきまして。菅谷さんて分かります?菅谷孝介さん。烏丸物産の」 まさかこの流れで、その名前が出てくるとは思わず、酢豚の皿に伸ばしていた手を止めてしまった。 「ああ……うん知ってる」 「菅谷さんが打ち合わせに来た日に、つぶやいたんですよ。”あと1か月か”って。これ運命じゃないですか」 「つぶやいただけでしょ。しかも別にバレンタインに触れてないし」 「いや意識してたかもしれないじゃないですか。だから私ちょうど昨日別れたんですよってアピールしちゃいました。菅谷さんてちょっとだけ暗い感じするけど、よくないですか?他のバイヤーの方がキラキラしすぎてて気が付かなかったんですけど、落ち着いてて素敵だなって。加奈子先輩はどう思います?」 「カシューナッツみたいなね」 「え?占いかなんかです?」 「みんなが認める営業のエース高岡くんがアーモンドで、安定感半端ない柳下さんがマカダミアナッツ。ピーナッツはみんなの愛されキャラ江口くんって感じ」 「あー確かにー!加奈子先輩の着眼点間違ってないですね。あーバレンタインまでに間に合うかな、菅谷さん。彼女いるのかも知らないから確認しなきゃ」  
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