1.Voice date

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1.Voice date

カセットデッキにカセットを差し込む音。 プラスチック同士がぶつかり、カチャッ となるのがどこか懐かしい。 [play] ...やぁ 僕だ。葉波(はなみ)みなと 1998年11月10日からだ。 一緒にいるのは凪葉凛(なぎはりん)だ。いや、葉波凛だ。 <こんにちは?かな> この音声を聞いているということは当時のことを思い出したくなったということなのだろうか...僕のことだ 忘れないでくれ。 当時は高校2年生の春だ。去年までのクラスメイトとは大半が違うクラスになって友達がいなかった僕は、昼休みも一人で昼食を食べていた。つまらなくはなかったが、寂しかった。 そんな中でクラスの中で初っ端からいじめがあったんだ。 いじめられていたのは凪葉凛。理由は確か... <女王の言いつけを守らなかったからよ> だそうだ。それを僕が助けた。正確には、女王と呼ばれていた女子を含めたヒエラルキー上位の集団の中で気の弱そうな女子に教師に言いつけるとか言って いじめる予定の情報をリークさせて仲間割れさせたんだ。 その結果、いじめは凪葉に対して「は」なくなった。 そして、もう一人「湯芽(ゆがや)」に出会ったんだ。彼...いや彼女は学校では知らない人がいないという有名人だった。IQが世界で1番になったことがあるほどに天才だったんだ。 凪葉のいじめの件で湯芽が、僕に「面白いことするじゃん」とか言って話しかけてきたんだ。そこから、気づいたら仲良くなっていた。 あと、彼女は今では受け入れられつつあるけど心と体の性別が違っていた人物 なんだ。彼女が中性的な顔立ちだったから、僕らを含めてなんの違和感もなかったけど最初は湯芽の事実を知らなかったんだ。 [noise] さて、君が忘れてはいけないことを話すよ。 それが君が知っておかなければいけない「義務」なんだ。忘れていいわけがない。 *** 1990.7.10 僕は昔から鼻がよかった。そして、特殊能力ってわけではないけど その人のニオイで性格もなんとなくだけどわかった。 甘い花のような香りは、高貴で上品な性格 甘い人工的な香りは、腹黒い性格 ミントとジンジャーのような香りなら、冷静だとかね... そのおかげで、いい人か悪い人かの区別もつくんだ。 「葉波君 電算部の先生が呼んでたよ。部長がさぼって休んでるから代わりにコンピュータを起動させておいてくれって」 彼女は、トニックウォーターのような香りの性格の女子だ。僕が好きなタイプで、今だって心臓がバクバクしている。誠実で温厚、でも冷徹。そんな性格だ。 「ありがと」 そう言うとニコッと微笑んで自席に戻っていく。彼女は、凪葉凛だ。 同じ部活に所属している彼女と僕、そして湯芽は電算部に所属している。商業高校に通っているため設備は充実していた。 [echo.] 「先生! システム起動させておきましたよ」 「悪ぃな! あいつサボりあがってよぉ」 せんべいを食べながら顧問の先生はそう言った。電算部の顧問 (みやこ) は、情報処理の担当であるが、OSの違いだとかで学校のコンピュータを起動させられない。部活の時間になると決まって部長が起動するのだが… 電算室に戻ってコンピュータに向かう。凪葉がモニタをのぞき込むようにして話しかけてくる。 「そういえば、湯芽が言ってたんだけど 未来へつながる扉 っていうのがあるらしいよ」 「最近 ネット掲示板に書かれたやつでしょ?」 すると、背後から僕の肩にトンっと手を置いて耳元で そうだよ と囁く声があった。 「湯芽」 「あたり」 僕がブラウザを起動させていると、湯芽はいいよなぁと言った。家庭でのネットワークは通信料がかかるため高校生の僕らには自由につなぐことなんてできない。ましてや家庭の電話回線を使うのだからなおさらだ。その点、使いたい放題の学校は最高な環境だと言える。 「ネット掲示板もゆっくり見られるのもいいよね」 「それな」 ブラウザを起動し、掲示板へ向かうとスレッドがいくつか増えていた。 僕ら3人は宝探しをするかの様なワクワク感で満たされていた。 [noise] 0. /未来へつながる扉/ 都心部の高速道路(高架)の足元に地下へ通じる扉があって、そこを進むとエレベーターがある。そのエレベータに乗り込むと未来へ行ける。扉っていうのはエレベータのドアな 1>嘘だろー 0>>1 東京市XXX區000-112 ここに行って確認してみるがいい 2>0 行ってみた。確かに、未来??についたけど 何にもなかったぞ 3>>2 どゆこと? 2>何ていうか…全てが壊れてた。そうだな 戦争が集結したみたいな? 3>>2 どうやってこっちに戻ったの? 2>>3 もと来た道で、手順で戻った … … 21>実際に行けば分かる。嘘ではない。だが、偽者が嘘の場所を言っていたずらすることもあるそうだ。気をつけろ! 0>>21 情報ありがとう。あと補足だ。東京市XXX區000-112にあると言ったが より詳しく言うと UF-21という高架橋の近くだよ [ESC] なまあたたかい風が頬をかすめる。  高速道路を照らす無数の照明が高架下まであふれている。それでも薄暗い高架下には古びたラジオデッキに雑誌が落ちている。 僕ら3人はその光景が薄気味悪かったが、歩みを進めるとそこには確かに「高速道路 管理地下施設」と書かれた扉があった。 「開けていいのか?」 僕が不安になってそう言うも湯芽は扉を開けていた。 地下につながっているらしく冷たい風が一気に吹き付ける。 目の前には、青白く照らされたエレベータホールと換気抗と思われる大きな穴が鉄格子で囲まれていた。 「このエレベーターおかしくないか?」 「どこが?」 湯芽が指さしたその先には、このエレベーターを造ったであろう銘板がある。副都心テクノスエレベーター と書かれたその下には「1998年製造」と書かれていた。 「8年後に造られたっていうことだよね?」 「らしいな」 「凪葉もさっきから黙り込んでるけどどうしたの?」 「いや...嫌な予感がするの」 詳しく聞こうと思った時エレベーターが到着した。ガタンという音とともに扉が開く。 乗り込み扉を閉めるを湯芽が押した途端小刻みな揺れがあった。 「湯芽!開けろ!!!」 僕がそう叫ぶと同時にエレベーターは急激に落下し始めた。 ―この先衝撃に備えてください。please protect your selfー 無機質な音声が流れてから数秒後ガクンっとした強い衝撃があった。同時にエレベーターが開くと目の前には、先ほどとは違いどこかの建物内のような場所だった。非常灯の緑の光だけが灯っており暗闇を緑に照らしていた。 「大丈夫かい?二人とも」 「大丈夫だけどここは?」 「なんか寒気がするわ。早く戻ろうよ」 凪葉涙目でそう訴える。僕もつられて怖くなってきてエレベーターに戻ろうとした。だが、湯芽だけがノリノリでいる。 「外に出てみよう。それから戻ろう。」 ... 一人で扉を開けて湯芽は出ていった。怖さと興味が僕の中で葛藤していた。だが、扉を開けて覗いてみると エレベーターで降下したのに景色はビルの屋上だった。見た感じ高層ビルのようだ。 だが... だが、その先の光景「街並み」は最悪だった。 異様なまでに真っ暗な空。その割には地上の街路灯だけはかろうじてついている。そして人の姿は...兵士が多くいる。一般市民は一人もいなかった。それに加えて拘束され連行される白衣を着た人たちは血まみれで中にはほかの白衣を着た人たちに肩を貸されている人だっている。 「見てみろよ あれ!」 湯芽が指さした先には、崩壊しかけた ビル 電波塔 そして真っ赤に染まった地面があった。割れた窓は、言うまでもなく無残で喪失感しかない。 「早く戻ろう!」 凪葉がそう言って僕の袖を引っ張る。それに引かれるように僕はエレベータホールへ戻ろうとした。その時だった。 真っ暗だった屋上を眩しい光が照らした。背後から強く注がれる照明で眼の前には僕と凪葉の影が見える。 振り返るとそこには軍の攻撃用ヘリが銃を向けてホバリングしている。 音すら気づかないほどの静音でライトで気が付いた。 「湯芽にげろ!」 そう言いつつもエレベータホールに向かって逃げ込もうと走ると容赦なくヘリから無数の銃弾が撃ち込まれた。人生最大のピンチというやつだ。 凪葉を抱えてエレベーターホールへ向かって走る。肩に銃弾がかすめる。 足に銃弾がヒットする。凪葉も少なからずヒットした。痛さよりも怖さが勝っていたから必死に逃げエレベータホールへ滑り込んで銃弾がやむのを待った。 「次に止んだらエレベーターに乗り込もう」 「動くのかな?」 息を切らせつつも相手の様子をのぞき込むと、屋上の縁の手すりに手をかけて立つ湯芽がいた。だが、違和感があった。 「凪葉? なんであいつ笑ってんだ?」 「えっ 笑ってる?」 湯芽はうれしいことがあったかのように無邪気に笑っている。ヘリはそんな湯芽に容赦なく打ち込んだのちに数発僕らの方へ撃ちどこかへ飛び去って行った。 [EM] 「おい! 湯芽」 問いかけても意味がないことくらいわかっていた。だが、それでも奇跡を願わずにはいられない。 だが、そろそろ可能か不可能かわからないが元の世界に戻らないことにはどうしようもない。それに僕らの出血が多くフラフラしてきていた。 「置いていこう。どうしようもない」 「...んっ うん」 涙を流す凪葉のよこで僕は、湯芽がなぜか笑っていた景色だけがフラッシュバックする。 ―この先衝撃に備えてください。please protect your selfー 床は血で真っ赤になっていた。床に座り込む僕の隣には凪葉が寄り掛かるようにしていた。息を弾ませている。 「...私は 戻ろうって言ったのに」 寝言のようにそう言う凪葉に僕は何とも言えないでいた。それは、後悔なのだろうか...それとも何かしらの摂理なのだろうか。普段なら絶対的にしないことなのに今日の今回は行動した。チキンな僕ですらだ。 [black out] 冷たさに気付いて目が覚めるとエレベーターのドアは開いたままだった。 床に寝そべっていた僕と凪葉だったが、床は綺麗な色で僕らには傷一つとしてなかった。外は乗り込んだ時と同じ夕方。 「凪葉起きて!」 「。。。」 無言で見回すと状況が分かったのか凪葉は立ち上がって凛とした表情で言った。 「もう一回行こう。 湯芽を助けよう」 ーこのエレベーターは不停止階のみが設定されており動作ができませんー 扉を閉めるたびにアナウンスが流れる。それは何度やっても 一度外に出てからやっても状況は変わらない。 「...何よこれ」 「何度やっても変わらない。それに不停止階ということは...」 その時だった。エレベーターホールの扉が開いた。50代後半の作業着を着たおじさんが入って僕らを見つけると笑っていた。 「君たちも都市伝説やらを見たのかな?そのエレベータに乗っても未来には行けないぞ」 「...そうなんですか?」 「あぁ、 それは地下鉄のトンネル維持用の物でな遠隔操作で動くんだ。君は操作パネルを探してたみたいだけどこのエレベーターにはその機構自体ないから無理だよ」 立ち入ったことは怒られなかった。なぜかは知らないが怒られることはなく、そのおじさんは手に持っていたヘルメットを頭にかぶってエレベーターに乗り込んだ。 「君たちは帰りな おじさんは見逃してあげるけど誰もがそうとは限らないからなぁ」 おじさんはそう笑っていた。扉が閉まると、中で無線機のようなもので連絡を取るとエレベーターは動き始めた。 ふと気になって銘板に目をやるとそこには「1987年製造」と書かれていた。 「凪葉これみてよ」 少し考えた様子だったが、無理だと思ったのか躊躇った(ためらった)様子だ。 「...今日は帰りましょう」 外に出ると、若干時間が進んでいた。帰路についた僕らは終始無言だった。 今起こったことが夢なのかもしれないと僕は思いたかった。だが、わずかに痛む足がそれを忘れさせなかった。傷こそないが、確かにそこには穴が開いていたのだ。 「また明日ね」 「うん。なんか...」 「いいのよ。明日ゆっくり考えよ」 分かれた僕らはそれぞれ家路についた。 [Dinner] 風呂に入ると僕はラジオをつける。流れる音楽やニュースを聞きながらもゆっくりとリラックスする。 「...」 足や腕を見ても何の変りもない。あれはいやな夢だったのだろうか... なら、明日 湯芽にも会えるし何の問題もないはずだよね と思い湯に顔まで浸かった。 1990.7.11 湯芽が1週間も前に転校したことを知った。凪葉もそれには驚いた様子だったが放課後の部室ではいたって普通だった。 「凪葉?湯芽のことだけどさ」 「あれは事実が変わったのよ。私の日記には確かにおとといまで湯芽がいたわ  信じられない」 「その湯芽のことなんだけど僕のロッカーに電話番号とメッセージが書かれたメモが貼ってあったんだ」 凪葉にもそのメモを見せると、さっきまでの表情と変わりどういうことなのか説明を求めるような顔をした。 ー葉波くんと凪葉へ ー私は転校したことになっているけど 生きている。 ―ほんとは君たちに知られてはいけないことがあったのに結果的に教えてしまった。 ―だから... ―心配しなくていいよ。電話番号書いてあるけどその僕は僕ではないから。 ―8年後に会えるだろうからまたね。 ―湯芽 「電話は?」 「九州の番号だった。それでかけてみたら湯芽の声だったけど、1週間前に転校したという事実だけがあるのみ。あとは説明しなくても察しがつくよね」 [Lost] 確かに存在した世界。僕らだけが知る世界。そして、事実と真実。 沼地に足を踏み入れたかのような... 何とも言えない気分がしていた。 「凛?」 「私、屋上で撃たれた時に湯芽が笑っていたけど…もしかしてこうなること知っていたんじゃないかな」 「そうなの?」 「そんな気がするの」 少しの沈黙後に凪葉は微笑んだ。それはあいまいなものだった。 「帰ろうっか」 ===END OF STORY 1.=== character 【葉波みなと】髪色:アッシュグレー 黒いセルロイド眼鏡をかけている。電子機器に強く電算部の副部長でもある。大人数が苦手であるが一人が好きなわけでもなく2人~3人くらいの集団が好きでいる。凪葉凛のことが好きでいる。告白こそしていないが凪葉には好きでいることがバレており逆に告白され付き合うことに。 だが、二人の性格的にいちゃつくことはほとんどないがお互いに愛している。  冷たい性格。冷徹だとか言われているが故に友人が昔から少ない。いじめられていないだけましだとは思うが空気的な扱いが多い。 【凪葉凛】髪色:アッシュコスモスピンク セルロイド眼鏡を同じくかけている。色白で華奢。クレオパトラカットで前髪は目の上部をぱっつりしている。葉波と付き合っている。 葉波は、やさしさで告白してくれたのだと思っているが実はいじめられていた際に葉波がいじめを処理してくれたことで、葉波に安心感や信頼感を抱いたからだった。それだけでなく葉波の性格などなどに一目惚れもした。いまでもたまにいじめられるが、今までのように肉体的な暴力による痣や傷はなくなった。精神的ないじめは続いているものの気にしなくなったのは彼がいるからだろう。湯芽にたいしては同性の友人として接している。 【湯芽ハルカ】髪色:アッシュブルー 世界の中で一番頭脳がよい(IQが高い)として政府公認の生徒。頭の良さが災いして進学校である大学を目指す生徒たちによって嫌われているほか、接しにくいとして浮いた存在である。 中性的な見た目であるため、性別はどちらとも見れる。なお、現代では理解が進んでいるが当時は理解されることの方が少なかった心と体の性別が一致していない。本人はそのことについて多くを語ってはいないが、葉波と凪葉には「どっちだっていい。コンピュータにだって性別はないんだ」と囁いていた。 本作のキーパーソンである。湯芽を中心に物語は周り、葉波たちは湯芽が高校生の時には知っていた情報のもとに動いていた。 *** 【次回予告】 静かに音が響く。 切なく流れるその曲は、終末をうたった「終末歌」だった。 ーさぁ 歩みを進めろ。 終わりはすでに過ぎ去った ー人は多くいたというのに いつも 孤独で それは 変わらない ―自己破壊のトリガーを引け。 それでも 世界は変わらない。 ―すべては システム で プログラム。そしてリセットする。 ―そうして ぼくは(きみは)悲しい気持ちになるんだ。 次回。1998年 大人になった葉波と凪葉 そして、メモにあった通り目の前にあらわれた 僕らの知る 湯芽 が終末の世界を語る。
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