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2.大人になった高校生
ーさぁ 歩みを進めろ。 終わりはすでに過ぎ去った
ー人は多くいたというのに いつも 孤独で それは 変わらない
―自己破壊のトリガーを引け。 それでも 世界は変わらない。
―すべては システム で プログラム。そしてリセットする。
―そうして ぼくは(きみは)悲しい気持ちになるんだ。
1998.8
深夜2時。休憩時間に地下にある防衛省の施設内の休憩所でラジオを流す。
深夜放送と言うだけあって音楽だけが流れる。
終末を歌ったその歌は、冷たく透き通った女性の声で一人でいる僕を慰めている。
ここは地下5階。地下8階から地下3階までを貫いて一つの構造物が作られた。神殿ともいえる柱の間をビルが建っているのだから不思議な光景だ。そしていくつかある休憩所のうち 今いるここは、神殿の外壁が目の前にあり下を見ると、忙しそうに動く軍事用の地下鉄に見上げると橋を渡る人の数々。若干不便な場所にあるためここにはいつも少ない人数しかいない。そして地下でラジオやテレビが受信できる唯一の場所でもある。
そして何よりも、蕎麦やラーメン。トーストやホットスナックの自販機が連立しているのだ。最高だろう。
音楽にのりながら 自販機のラーメンと紙コップの自販機でLサイズのコーラを買い わずかな休憩を楽しんでいた。
「そういえばもう1ヶ月も地上に出てないなぁ」
独り言を囁くと、後ろで 声が聞こえた。
「だめねぇ ダーリン?野菜も食べなきゃ」
「外にもたまには出たいんですがね?」
「デートでもいいけど 戦争を終わらせないとのんびりもできないわ」
あれから8年が経ち去年僕らは結婚した。同じ防衛省内の地下で働いている。僕が通信指令で彼女は調達局の医療課だ。
「そういえば、湯芽と再会するのもそろそろよね」
「確かに...だが、彼女のうわさも情報も聞かないなぁ」
湯芽が残したメモによれば今年僕らは再開となるらしいが...?
「みなとってこの曲好きだよね」
「また流れてる さっきも流れたんだけど」
凜に僕はサンドイッチと紅茶を渡して深夜のお茶会をした。
「この曲調っていうか音が好きなんだよね。切ないけどリズミカルでいて冷たい。」
―深夜、僕らは夫婦っぽいことをした。仲よく談笑し食事...
[beep]
―副都心放送局が深夜3時をお伝えします。
<作戦司令。MMG(魔法を軍事利用することを目的とした反政府組織)が活動を開始しレーダのA1からE4まで感知しました>
「よし。そうしたら 魔法の正しい使い方を教えてあげなきゃね。 魔法部隊 BLUEからPINKまでを向かわせて 指示を仰げ」
<了解>
暗闇に光るモニタに僕を含めて十数人がにらみを利かす。
魔法が開発され実用化されてから思わぬ事態が起こった。アニメや小説のような「魔獣」と戦うなんてことはなく どちらかと言えば人間同士での戦いがメインだった。錬金術が実現したというのに人はどうしても独占したいがために戦いを好むらしい。
失敗して覚えるのは、僕と同じなのだろうが規模が違う。
戦争が魔法によって起こったのだ。
事の発端はこうだ。
魔法が開発され錬金術のように、違うものから物を生成したり 物理的概念を無視した行動などができるようになった。魔法自体は概念改良薬と呼ばれるものの摂取によって誕生する。人間が摂取すれば 適応者 である限り発動する。
10人に1人は、適応するそうだ。
だが、平和利用を目的としていたものの 軍事的...つまり銃やミサイルのようにそれで商売をしようとしたものが現れそれは大きな組織となった。人が兵器となる時代...聞いただけでも最悪だろう。
それらの組織を殲滅すべく防衛省では戦時体制をとり対策を始めた。つまり 戦争だ。
[Experiment]
そして、相手よりも強い魔法を開発するため または 相手の魔法を無効化させるための実験を日夜行っているのが 「魔法研究室」だ。捕まえた敵の魔法使いを検査し、効果的に攻撃するのだ。
「葉波さん こんにちは」
「お疲れ様です」
扉の先には白衣姿が10人ほどいた。そのうちの一人友人 桜木 がいる。
「葉波 久しぶりじゃんかー」
「よぉ 前にも話してた話なんだけど」
「ちょうどよかった。これから電話するところだったんよ」
進められた椅子に座ると、桜木がコンピュータの画面を持ってきた。電源が付くとそこには驚きの光景があった。
「湯芽...じゃないか」
「やっぱり知ってたか」
桜木が言うには、昨日 敵を攻略した際に魔法使いを捕まえたということだった。無力化の薬品を投与しほかの魔法使いは無力化が完了したのにも関わらず 湯芽 だけは何の効果もなく研究室に送られてきたのだという。
椅子にもたれかかり眠たそうにあくびをする桜木だったが、目をこすりながらも 彼に会うか? と言ってくれた。
「もちろん。今からでも?」
「こっちだよ」
数重にもなったセキュリティを通り抜けると、モニタ―にもあった部屋につく。そこには、最後に彼を見たのと同じ格好で 表情でいる彼女がいた。
「約束通りだよ? 久しぶり」
驚いた。いなくなったと思った人がいるのだ。だが、どこかそれ以上の感情にはならなかった。
「久しぶり。 凪葉もいるよ。そして結婚もした」
「おめでとう。本当は祝いの席にいたかったけどね 未来から待ってた的な?」
桜木は部屋の片隅で居眠りしていた。
湯芽は依然と違ってシナモンのにおいがしていた。これは...多くの闇を抱えている人に多いものだと思った。
「聞きたいことはたくさんあるが、また今度にするよ。僕も忙しいもんでね」
「そう。でもそれは... ごめんなさい」
「なぜ謝る?」
「...そのうちわかるよ。でも謝るなら今だと思ったの」
[space]
湯芽の言葉の意味が分からないまま 例の休憩所に行くと眠そうに船をこいでいる凛がいた。
おこさないようにとなりに腰かけると、目が覚めてしまった様子で僕を見ると
「おはよう」
と言った。
・・・
湯芽について話すと嬉しそうにした。
「私の唯一の友人よ うれしいわ」
暇ができたら会いに行くと凜は言った。
だが...
<<MMGによってこの施設の地下3階までが侵攻されました!!直ちに緊急行動を...ちょっと何する うっ...
え~皆さん こんばんちは。 我々は 皆さんを捕獲しまーす。魔法使えるんだから当たり前だよね 僕らの商品(武器)になってもらいます>>
いくら防衛省で精鋭がそろっていても武器が無ければ抗えるわけがなかった。えっと...つまり 制圧され侵攻された。
突然の放送に驚いた。僕らは荷物をそのままに非常用のシェルターへ入ろうとした時
「wait.(待て)」
渋い声で後ろに付かれていた。
そうして
手錠で隣の凪葉とつながれ先程の実験施設へ連れた。そして湯芽がいたはずの場所に連れて行かれると格子が閉じられた。電気も消されそこには薄暗い照明が残るだけだった。
「最悪だ」
逃げようとも、状況を知ろうとも疲れてそのまま眠りについた。船を漕ぐようにウトウトしていると僕らを呼ぶ声が聞こえた。
「...凛...葉波」
かすかに聞こえる声だ。声の方へ行くとその声が湯芽だと気づいた。
「二人にはつたえておかないといけない事があるから来て」
鍵が開き僕らは湯芽の後ろをついて行った。連れてかれた先は使ったことのない知らない部屋だった。
この施設の最下層である地下8階には、特務権限がある者のみが立ち入れる空間がある。
普段利用する部屋と異なり机や冷蔵庫・テレビにクローゼットが置かれており生活感が溢れていた。だが、その空間はお世辞にも良いとは言えない。人工換気に空気清浄機の独特のニオイ。そして何よりも窮屈だ。
「私は…8年前からここにいるの」
「でも、外での交戦中に君は見つかったんじゃの?」
「表向きはね。ただ、実際の敵というのも その交戦というのも全ては仕組まれていたんだよ」
そう言うと湯芽は机に向かった。机上には分厚いファイルがあり手に取ると僕にそれを渡す。
〈魔力恒常利用 産業計画〉
と書かれていた。内容はというと、端的にいえば「魔法を使って天然資源に変わるエネルギーを作ろう」といったところか。無論、魔法が使えるのは人間なので労働として…
ーなお、上級階級社会を発展維持のため下級階級を消耗品として使用
「これはフィクションか?」
「リアルだよ」
凛はいつも以上に冷めた目でいた。
「私達が必死に戦っていた意味は?」
「それは君たちが負けることで、政府の陰謀だとバレずに 負けたので… という理由づけだよ」
下級階級からの反対を無視するためなのだろう。ファイルには手順や方法などが書かれている。そして…一番最後のページには計画者の名前が書かれていた。
作戦計画:湯芽ハルカ
「つまり僕は悪役ってわけ。そして僕は君たちが知らない所で世界を動かしていたんだ」
虚無的笑顔が見るに耐えなかった。
「で、なぜその情報を僕らに教えたんだ?」
「友達だから… 私を、私が守るべき最後のものだったから」
凛は無言で湯芽を抱いた。無理して平常を保っていた湯芽だったが泣き崩れた。まるで子供のように。
(再生中のカセットデッキ)
ー僕は彼女が絶対的「悪」ではないと思った
ーむしろ 利用されていた のだと
ーそこで知った話、湯芽の親は天才である湯芽を実験体としたという。
ー親は国立研究所で働いており実験が大好きで自分の子供すらも実験に利用するような人だったという
ー気づけば孤独で、未来で来たるべく魔力戦争へ参入させたというのだ。
(時間軸へ戻る)
「それで僕らは秘密を知ったわけだけど どうするの?」
凛が尋ねるとかすれ声で応える
「2090年に、僕が転校したあの日に戻るんだ。1990-07-10日だ」
方法は、この施設の地上10階にある封鎖されたエレベーターを使う…
そう。
8年前と反対の事をするのだ。
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「良かったのかな」
初老の作業着を来たおじさんが湯芽にそう言った。
「うん。これが最善で 幸せなの」
「そうかい。君が次に二人に出会うときは 君はどんな姿なんだろうね」
おじさんは、8年前のあの日(湯芽が戻ってこなかった)にエレベーターに乗り込んだ作業員だ。
エレベーターホールで葉波と凛を見送った直後の彼女といる。二人は、湯芽が始めてきたその時から一緒にいる。親のように…理想的な親のようにいる。
「さようなら 二人とも」
end of story2.
NEXT…
当たり前の様に流れる世界。高度に発展した都市には無数のライトが灯っている。そしてそこには魔法が無くて…
そんな世界にも綻びがありそれは日に増してゆく。そこに現れたのは 湯芽ハルカ 彼女だった。
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