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3.update
当たり前の様に流れる世界。高度に発展した都市には無数のライトが灯っている。そしてそこには魔法が無くて…
そんな世界にも綻びがありそれは日に増してゆく。そこに現れたのは 湯芽ハルカ 彼女だった。
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カセットがギシギシと嫌な音を立て始めた。
「一旦止めよう」
釦を押してカセットを取り出すとテープがワカメのようになっている。
「古いからね」
凛がそう言いながら紅茶を注ぐ。不意にカセットの続きが気になって壊れることを前提で無理に再生させようとした。
「あのさ…みなと?私の記憶が正しければ そのテープの続き ないわよ」
ふと、思い出したかのようにそう言った。
「というと?」
「記憶が壊れた(忘れた)のもその頃なのよ。湯芽という人物がいて、今は… ってね」
言われてみれば、忘れるなと言う割には思い出せない。テープもこの有様では1回がチャンスだろう。
「凛も聴くんだ」
再生
ー…
ーth…is the …the emergency broa…dcast…
ー魔力係数……ブレイク。き
ーき…聞こえるか?
僕の声だ。最初に再生したときと同じ。だが、何かから隠れるようにしてその声は入っていた。
ー今のはテレビの…ほ…放送だ。録音を始めて20分。急にテレビで緊急報道が始まった。
ー直ちに避難を…してくだ…くださ い
音の中で聞こえるテレビの声はもちろん遠くで聞こえる爆発音でそれは急に始まったのだとわかる。
ー見た感じ、僕らが住んでいる東京市に…
増してノイズが入る。途切れ途切れで聞こえるのは騒々しい外の声とテレビの音が混ざっているからだろう。
ー凛…外はどうだ?見に行くと危険か?
ーまだ大丈夫よ...遠く先で火炎が見える。でも私達も隠れるなり逃げるなりしないと…
ノイズの中でも聞こえる外の騒音が、段々と近づいているのが分かった。
ーあぁ。逃げよう…いやどこへ?隠れるか?
それからしばらくは僕の吐息と鳴り響くサイレン ノイズが聞こえる。カセットからはギシギシと今にも切れそうな音がしている。
―... 今、僕と凪葉は近くの地下街へ逃げ込んだ。ここには非常用の地下坑道があるからそこに向かっている。
周りにも人がいるようで、ざわついている。横で凜がマイクにむかって話し始める。
―終末よ。ここに来るまでの間に街灯のテレビとかが見えたんだけど 東京市の40%がすでに壊滅的な状況だって。原因は...
その時だった。
恐ろしく大きな爆発音が聞こえた。ノイズと相まって音は甲高い音が流れるだけだった。
―...
ー...
ーい...痛っ
―あぁ...えぇっと 僕と凜は大丈夫だ。軽く切り傷があるくらいだ。
ーみなと 見てよ
ー状況は最悪だ。僕らの後ろの方にいた集団はいない。生存者はないだろう。床が真っ赤に染まっている。そして、僕らの退路は消えた。
その発言を最後にカセットテープは音が無くなった。取り出してみるとカセットが巻き切れていた。
「...状況がわからない。そして、どうすれば今に至るっていうんだろうか」
「みなと... 気のせいかもしれないけど 私たちってどうして今ここにいれるのかな?」
「...なぜ? だって僕らは...僕らは なぜ ここにいるか?」
思い出そうとしても ここに至るまでの記憶がない。
何なら、どうやってこの部屋にいるのかすらわからない。名前も、今が何年なのかもわかる。なのに... この部屋に来るに至る過程がわからない。
「...バグよ。こんなの バグだって 言ってよっ ねぇってばぁーー」
わけのわからない状況と不安で泣き崩れる凛に僕は、茫然として見ていた。だって 僕にはわからないのだから。
「僕にはわからない。わかりようがない。 扉を開けてみよう。それでわかるかもしれない」
閉じていた扉のノブを回して開く。うち開きの扉の先には真っ暗闇が広がっている。凜は、泣き崩れていたから僕が手を握って一緒に進んでいった。
真っ暗なその先には、配管が張り巡らされた薄暗い通路がある。振り返るとそこには扉なんてない。まるで、ゲームの中のような感覚だ。
「寒いわ... 冷たい。 寒い...」
凛がそう言いながらも僕についてくる。寒くはないのだが、凜だけがさむがっている。
「大丈夫だよ。 ほら、君の手だって暖かいじゃないか」
それでもなお、震える様子の凛に僕は尋ねた。どのくらい寒いの?と。
「...そうね 氷の上を歩いててててててててててててててーーーーーーー」
壊れた人形のように首をカクカクと左右に振りだした。壊れたと思うほどに気味が悪い。よくよく近づいて見ていくと、だんだんと凜が人形...に見えてくる。そして聞こえる。
「どう?夢から覚めた気分は」
そう聞こえた。
[beep]
ー副都心放送局が深夜3時をお伝えします。
ラジオで流れる時報だ。
どうやら、2098年の地下施設の休憩所にいるらしい。見える天井も薄暗く遠くにある自販機の光が反射している。
だが、
見上げた上には、凜ではなく湯芽ハルカがいた。立って僕を見下ろす様子の彼女に僕は尋ねた。
「凛...は?」
表情が変わることもなく、冷たい表情で湯芽は言った。
「まずは自分のことを心配するべきだよ... 彼女は君の横にいるじゃないか」
そう言われて、湯芽の視線の先を見ると倒れている凛がいた。加えて、僕が床に寝転んでいるということもその時わかったのだった。
「彼女が目を覚ますのには時間がかかるかもしれないよ なんたって、君がここに連れてこられる前に彼女の方が先に実験をされていたんだ。」
冷たい表情で湯芽は囁いた。
「何の話だ?」
「覚えていないんだ...いや 忘れさせられているんだっけ?」
***
1998.8
―さぁて今日も素晴らしいニュースが入っていますよ。館林君 よろしく!!
―はいよっ きょうは、夢の新技術「魔法」に関する情報です。国立電子魔法科学局が魔法を発見したと公表してから2カ月が経ちましたが、昨日やっと一般人でも利用できるようになるための最終実験を開始するというのです。
テレビでは浮かれた様子のコメンテーターたちが、魔法が実現すると怪我をしても病気をしても治るだとか 学力や新次元が認知できるとか言っている。私はそんな彼らを見て悲しいという感情を持っていた。
というのも、魔法は確かに実現し具現化したがそれは一般的になるわけでもなくイレギュラーな存在でむしろそれは健康体に起こる健康障害から起こる危険なものだったのだ。
極限まで疲労を起こさせて、休息を取らせようというときに管理された傷を造り貧血状態になった時に生命の危機を感じるようなときに起こるの物それが魔法なのだから。
いわば、生命保持の最終手段というのにそれを常用使用させようというのだから頭がおかしい。
まぁその研究をやらされている私が言うのも問題ありだが。
そして何よりも大きな問題が一つあった。
私の唯一信頼を置ける友人2人が実験の被検体として連れてこられたのだ。
二人とも、軍部に属する存在であるのになぜか連れてこられたのだ。
知り合いを通じて理由を尋ねたが答えは理由になってすらいない。
―あぁ?葉波と凪葉だろ あいつら女王に嫌われていたからなぁ 周りも仕方なくしたがった的なだよ。
ー女王っていうのは、凪葉の学生時代の同級生な。葉波のことが一方的に好きで、その葉波を凪葉にとられたとでも思っているのだろう。
・・・
暗い廊下と4重にもなるセキュリティを超えていくとそこには手錠で柱につながれている2人がいる。
床は真っ赤になっているうえに鉄のようなにおいがしている。
「やぁ。二人とも気分は...悪いだろうけど 特別な力とか感じてる?」
私の問いかけに答えはない。
ハートモニターが動作しているのが二人が生きているか知る術だ。
「また来るよ。」
反応がない二人に別れを告げて、暗い廊下を戻ろうとしたとき白衣を着た女に会い呼び止められた。
「湯芽...オマエは二人に思い入れでもあるのか?ただの被検体だというのだが?」
「...仲間だ。私を唯一 本当に知っていて理解をしてくれる」
甲高く笑い始めた女をよそに通り過ぎようとしたとき、真っ暗な廊下が真っピンクに光った。
「...!!!」
振り返ると凪葉の首元から光があふれていた。つられて数秒もしないうちに葉波の手首からは青白い光があふれた。合わさって白くまぶしい光にその女がうれしそうに電話を手にした。
「成功よ!! 実験の成功! 早く来て 人体実験の続きよ」
その会話でその女が、二人を被検体にした女王だということが分かった。
その瞬間。何とも言えない怒りと憎しみに近いものが出てきた。
「そうよ。電脳端子と...って何よ?」
「何?それは私のセリフよ。 二人を開放しなさい」
「で?」
開き直る女だったが、その瞬間爆発にも近い衝撃が私たちを包んだ。
二人の方を見ると、そこには人影がもう2つ増えている。
「...?だれ」
女が不思議そうに近づいていくと鈍い バキッ という音が聞こえた。
同時に ゴッ という重たいものが落ちた音が。その音の方を見るとそこには、顔のない二人の人間のようなものと首がない女が立っていた。
やばいと思ってその場を逃げようと走り出すと同時に実験道具を持った研究者たちとすれ違った。
「邪魔だ」
そう言って通り過ぎる彼らをよそにかけていくと後ろの方で悲鳴にも近い声が消えた。
///
外は真っ暗になっていた。研究施設から離れた大学の私の部屋に入り電気をつけると私が真っ赤な液体に染まっていることにやっと気が付いた。女の血だろう。 大学内のシャワーを浴びて部屋のコンピュータで遠隔で施設のカメラの様子を見るとそこは凄惨な状態だった。
サイレントも聞こえている。
[MUSIC with FM RADIO]
不思議と落ち着いている私に自分でも驚いている。むしろ怖い。だが、ラジオをつけてモニター越しに警察の様子を見ていると面白いことに警察はすぐに引き上げてしまった。
二人の顔のない人間みたいなものの場所までいかずにだ。
その代わりに、スーツ姿の男たちとわずかにいる女らが入っていく。手には、実験段階の魔法を強制起動させる装置を持っている。
加えてカメラをズームすると後ろの方で指揮を執っている人物を見ると科学省の 世々田 がいる。つまり、ここにいるスーツの人影は政府の秘密組織だろう。
「このままだと葉波と凪葉が本当に危ない」
そう思った私は、大学の地下から施設へと通じる秘密通路へと向かった。
地下へ通じる扉を開けた瞬間何かとぶつかった。
「痛っ」
「す、すみません?」
誰かとおもってのぞき込むと軍服姿の男だった。
「何しているの?」
私がそう尋ねると、男は恥ずかしそうにかっこいいことを言った。
「ダチを助けに」
「照れながら言うなって」
男は桜木。 葉波の友人だという。 彼もやはり私と同じく二人を助け出すためにいるのだと向かいながら聞いた。
実験施設の扉を開けて地下に向かうと葉波たちの前にスーツたちがいた。私たちは彼らに見つからないように様子を見ることにした。
「...我々をわかるか?」
「...」
反応があいまいな二人にイラついているのか一人がぼやいた。
「ったく 顔も血まみれでわからないし 人 かよ?」
すぐに別のスーツに注意されていたが、態度だけでいえば全員がそんな感じだった。
それでも一人が扉に手をかけようとしたとき、やはり顔のない二人がスーツたちに近付いていた。それに気づいたのか乾いた銃声が聞こえる。
「副産物が厄介なのはコイツらもか」
銃声の一方で桜木が私の耳元で話しかける。
「今、奴らは手薄だ。扉があいた瞬間にフラッシュバンですきを作るから君はこの金属バサミで手錠を切って連れ出すんだ。」
「私が凪葉を君が葉波だな」
そうだとうなずき 扉があいた瞬間桜木がフラッシュバンを放り出した。
一瞬の破裂音と閃光が光ると同時に私たちは実行した。
倒れるスーツたちをよそにぐったりとしている二人を連れ出す。
「急げ あと10秒でコイツラも活動し始める」
息切れをしつつも実験施設と大学を結ぶ秘密通路で座り込むと、桜木が凪葉と葉波につけられていたチョーカーに気が付いた。ワイヤー上のものは見えず今の今まで気づかなかった。
そしてそれはポケットに入っている機会につながれていた。
「これは麻酔薬ね。強い鎮痛作用がある」
「そうなのか?」
「これで、二人は意識がなかったのね」
のんびりもしてられないので私たちは大学ではなくて軍の地下施設へと向かった。
「僕の研究室ならあいているからそこへいこう。研究室って言っても休憩所だけどね」
いつも使っているんだと桜木は言った。
***
「覚えていないんだ...いや 忘れさせられているんだっけ?」
私のその言葉に不思議そうにする葉波だったが、背後で聞こえる声に気が付いてゆっくりと振り向くと凪葉も意識を取り戻したようだった。
「湯芽?そういえば何で床なんだ」
「痛みに悶えて椅子から落ちそうだったから」
「なるほど」
[NOise]
―政府は、本日の午前2時ごろに非常事態を宣言しました。これは魔法が誕生したという事実による X国からの攻撃であり侵略であるとのことで直ちに安全な建物へのひ...
<こちらは非常事態管理室。国家において存続の危機が発生した ここから先は十分な避難物資や安全の保護が保証されない。 法規を破棄したのちに我々は 非常事態事項 に基づき軍事の全面使用を行い適正力を清掃する>
日が昇るころには地上はがれきの山となっていた。テレビ放送ではX国とされていたが実際には魔法を利用すること自体が危険であるということで連合の協定を結んだ各国の軍が攻撃を始めたようだった。
それに拍車をかけるように自爆攻撃にも近い攻撃によってこの国は壊滅的な状況となった。 いうまでもなく生存者は地下鉄の駅や地下街にいたわずか数千人。そして、私はその様子を地上で見ているのだ。
しばらくして、外国兵が私たちのもとへ来て流ちょうな日本語で体調やけがの有無を確認し始めた。
地下施設にいた葉波と凪葉そして桜木も無事に保護された。
だが、私たちは魔法ができる過程を知っているとして自由は保障されなかった。そして、その技術を秘密にするためにこうして今も地下施設にいる。
「みなと? やっと二人きりの時間が持てた」
「そうだね。それに外には出れなくとも自由がある」
「湯芽...俺さ 3人と違って魔法の実験にかかわっていなかったから外に出てもいいんだって」
「よかったじゃない。大きな肉でも食べてきなさいよ 仕事だってもらえたんでしょ?」
「でも...」
俺だけが...という表情の桜木に私は大笑いした。
「体はでかいのに気は小さいのな」
「笑わないでよぉ」
「行っておいでよ。たまにでいいから遊びに来てね」
***
結局、あのカセットテープは何だったのか。ましてやあの暗い部屋に配管だらけの廊下...
「これって夢?」
「...夢でもいいのよ。知ったところでこれ以上状況が壊れても困るよ」
かすかに感じるあの時の感覚。
冷たい床に配管だらけの廊下。
たしか
そのあと
「これは1990年の時からの実験なんだ」
「僕が君たちを操る。物語を書き込む」
「君らは人形だ」
「生きた屍。すなわち 情報記録媒体」
キオクが
ツクレル
ディストピア
「えっ?」
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