一人目。

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一人目。

「僕ですか? 書きたいものを書いています。  だってそうでしょう、書きたくなければ書かないんです。そのときそのときに書きたいなと思ったものを書いているんです。色々なものの影響を受けて、模倣したこともありますし。  僕の作品を読んでくれた中でひとりでも、「おっ、面白いじゃん」なんて思ってくれた人がいたら、それで十分かななんて思ったりもします。  え? ……学生時代ですか。学生時代は……いつも肩身が狭かったです。  僕の周りの人のイメージでは、小説を書く奴なんて「根暗でオタクで、暗がりでぶつぶつ言ってる危ない奴」みたいな……妄想癖で精神病なんて言われたこともありますしね。  学生時代、運動系の部活のことはでかでかと載りました。僕のことは学校で配られる冊子の後ろに、僕の名前と賞の名前だけが載っていました。それを見た人が何て言ったと思いますか。「文芸部なんてあったんだ」ですよ。  例えば、色々な作品の展覧会を開いたとしますよね。小説もあれば、詩や俳句なんかもあって、もちろん絵や彫刻、書道もあるんです。絵や短い作品、例えば俳句や短歌なんかは、一目で見られるからみんな足を止めるでしょう。「こんな賞とったんだって」「へえすごいね」なんてやるでしょう。  でも小説には見向きもしません。ずっと立って読まなきゃいけないからです。掲載するにも場所をとりますから、特別に場所を設けないと僕の作品は飾ってももらえません。「小説を書いているんだ」と明言でもしない限り、僕はクラスの中で「地味で真面目で堅物で面白くないやつ」ポジションです。「小説を書いているんだ」と言ったら言ったで、「へえ」と嘲笑混じりに返されるだけです。そういう時はみんな、「道理で頭おかしいんだね」とでも言いたげです。  ああでも、どこかに受賞を掲載されたらいい方です。もう少し昔は賞をとったことすら無視されました。学校で奨励していたのは作文や科学の賞だったからです。  ……あ、僕の作品を見て下さったんですか? ゴミみたいなやつばっかだったでしょ(笑)。それに、胸糞悪い終わり方をしてばっかりで、ハッピーエンドが一つもなかったんじゃないですか?  ハッピーエンド、嫌いなんです。ばかばかしくないですか? 僕は幸せそうな人を書くのが苦手です。幸せな結末にするのも苦手です。暗くて何の救いもなくて、どん底な話を書くのが好きです。まあ、結局〆切に間に合わないことが多いので、書ききれた話って少ないんですけど。  だってインチキじゃないですか、幸せな結末なんて。僕の性格が歪んでいるだけかもしれませんけど(笑)。大抵破滅か欠損で世の中おしまいですよね。現に人間は『死』が結末じゃないですか(笑)。死んだらそこで終わりですよ。だから僕、生きてるうちにやれることをやれるだけやって、こんな世界くそくらえだって言って死にたいなぁ。  話変わりますけど、僕は「小説でも書いてみようかな」という言葉が嫌いです。「でも」って何ですか。そんな、ついで感覚で書けるものではないんです。小説家を馬鹿にしているとしか思えません。芸能人が書いた小説も嫌いです。  生半可な気持ちで書いてほしくないんです。  僕は復讐したくて書いていますから。  僕を馬鹿にした人たちも、僕の書いた作品の中でなら僕の思うがままです。あいつらが僕を笑いものにしたぶん、僕もあいつらを笑いものにするんです。忘れさせてなんてやりません。僕は覚えています。ずっとずっとずっとずっと覚えています。あいつらに言われたこともそのまま書くんです。あいつらの苗字や名前をどこか少しだけ変えて、少し表現をオーバーにして、ちゃんと登場人物にして、でももし本人が見たらすぐわかるように書くんです。だって聞こえていたんです、あいつらが僕を馬鹿にしている話は、みんな聞こえていたんです。    あいつらには痛くもかゆくもないでしょう。それでもいいんです。僕にとって小説なんて、……自己満足でしかないですから。  くっ……だらないなぁ。  昔はもっと違う理由で書いてたと思うんですけどね。いつからこうなったんだろ。そりゃあ、いつもいつも復讐復讐って思って書いてるわけじゃないです。でも時々、夜になると悔しくなるんです。僕を虐げた奴らが今も呑気に笑ってると思うと、悔しくて悔しくて。原稿に叩きつけて、「リアルな描写ですね」って担当さんに言われるんです。そりゃリアルでしょ、実際にやられたんだから(笑)。  ウザイでしょ、僕。こんなんだから、批評されるとムカついて仕方ないんです。見栄えって大事だと思いますけど、三点リーダーを一ページに三か所以上使ったらダメとか、エクスクラメーションマーク、ああ「びっくりマーク」のことですけど、これを三回以上続けて使ったらダメとか言われたことがありまして。正直意味がわかりません。どうしても改行したくないところとかありますし。僕のこだわりなんて何の価値もないんでしょうけど、僕にとってはどんなものよりも価値があるんです。  書くのってね……すごく大変なんです。だから、何か一つでも否定されると自分の努力も否定された気がするんでしょうね。まあ、自分に自信がないからですよ(笑)。僕は自分の魂を削って書いているような気持ちになるときがあります。何時間かけても何日かけても、書けないときは書けなくて、本当に僕向いてないなって思って……でも、書いてる。  正直僕、書くのが好きってわけじゃないんです。何だろう、もう意地なんですかね。ここまでやってきたからには、やめるわけにいかないじゃないですか。やめちゃったら、僕がこれまで費やしてきた時間って全部無駄になるでしょう。  僕は小説を、自分を語る術にしたかったのかもしれません。  あーっと……こんなもんでいいですかね。すみません、こんなんで(笑)。次の取材があって。記事にするときは使えそうなとこだけ使ってください。  ええ。はい。はい。ありがとうございました。では、失礼します」
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