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「めありちゃん、いいことを教えてあげるよ」
覚醒は唐突だった。
まどろみなどなかった。
意識がはっきりすると、首のないからだが白い作業台の上に横たわっているのが緑のガラスごしに見えた。なんだか見覚えのある美しいからだだった。作業台だと思ったのは、レンチやペンチが置いてあったからだ。
「君の生きようとあがく姿勢が学会で評価された。人造人間の生存本能は実に興味深い」
頭が何かに固定されているのか動かない。目しか動かせない。
下を見た。
瓶底に私の髪の毛が渦を巻いているのが見えた。
こんな風にされたら髪がいたむじゃないの。
もっとも最近はろくに手入れしてなかったけど。
「君は特例として修復を受け、データ収集のために今後も自分が人造人間だと理解したうえで社会生活をしていってもらうね。よかったねぇ、めありちゃん」
白衣を着た細っちょろいおじいちゃんがデスクトップ型の大きなパソコンの前に座っていて、白髪がちょろっとだけ残った後頭部をこちらに向けていた。パソコンからは幾多ものコードが伸び、私のからだの首の断面に接続されていた。
「私の名前は美鶴です」
「そんなの、どっちでもいいじゃないか」
「どっちでもよくないです」
博士は私の話を聞いているんだか聞いていないんだか、鼻歌混じりに作業を続ける。
「いやあ、君はよくやってくれたよ。おかげで研究費ががっぽりだ。ぼかァ、君が大好きだよ~。これからもその調子でいってチョーダイね」
瓶の中に入った生首の私は言った。
「私はあなたが大嫌いです」
「おや」
博士がくるりと振り向いた。でぶの猫みたいな顔をほころばせている。
彼はどこまでも優しい声で言った。
「反抗期かな」
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