つくりものの反抗

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「あ、もしもし。そちらで製造された製品の者ですが」 「はい、製造番号をお知らせください」 「どうやって知るんですか」 「はい、『私の製造番号は何ですか』と自らの心にお問い合わせください」 「アンドロイドに心はあるんですか」 「そういう問答をするには時間がありません」  ならば仕方がないな。  私は頭の中で心に『私の製造番号は何ですか』と問いかけてみた。  アルファベットと数字の入り混じった返答が、自然と頭の中に浮かび上がった。  心が頭にあるのかというのは、問答をする時間がないので割愛することにする。  番号を伝えると、相手は「製造者におつなぎします、しばらくお待ちください」と言って、カノンのオルゴールが流れ始めた。相変わらず美しい。私ほどじゃないけど。  私がスマホでアパレルブランドの通販を見ていると、ようやくカノンが終わって、優しそうなおじいちゃんの声が聞こえた。 「わが子からの電話なんて珍しいナァ。元気かね、めありちゃん」 「私の名前は美鶴です」 「おうおう、販売先の家庭でつけてもらった名前なんだね。良い名前じゃないか。まあ私が作った時には個人的にめありとつけたんだがね」 「名前も可愛いなんて完璧ですね」 「はっはっは、違いない」  生みの親とも案外気が合うかもしれない。 「それで、どうしたんだいめありちゃん」 「私の名前は美鶴です」 「まあまあ、どっちでもいいじゃないか」 「そういうものでしょうか」 「ふむ」 「咳をしたら歯車が口から出てきたんです」 「時々あることだね」 「その歯車がどこのものかわからないのと、錆びていたのが気になって」 「もう一回飲み込めば相応のところにはまるし、気になるんだったら錆び取りを飲めばいいんじゃないかな」 「そんな適当な対処でいいんでしょうか」 「そもそもね、君のタイプは大体十五年ほどで自分が機械だったことも知らずに停止してしまうんだよ。ご両親もそれを承知だったはずだ。保証はすでに切れてるし、もう君は今日止まってしまってもおかしくないんだよ」  なんと。  そうだったのか。  さすがに、ならば仕方がないなとは言えない。 「私の一存で直してもらうことはできないんですか」 「高校生に払える金額じゃなんだナァ」 「親に頼みます」 「自分で食い扶持を稼いだこともない小娘が滅多なこと言うんじゃないよう。元々修理は請け負ってないからバカ高くしちゃうよ。こっちも研究費が足りなくてさー」  ……。  こいつは何を言っているんだ? 「私はまだ止まりたくないです」 「やり残したことでもあるの?」 「具体的になにとは言えませんが、まだ生きていたいのです」  朗らかな笑い声が聞こえた。 「そもそも君は生き物じゃないよ」  そう笑いながら言い捨てるこいつもおよそ生き物とは思えない。 「何か方法はありませんか」 「ないね」  化け物め。
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