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2.鍛冶屋のエルフ娘
森を出るとすぐそこに道があった。
とは言っても、日本の道路のようになっている訳ではなく、単に草が生えていない踏み固められた道というだけ。ティアが言うには馬車や竜車が通る道らしい。
ただ歩くのもあれなので、この世界の通貨について教えてもらうことにした。
「紙幣を広めようとした人も居た。でも、魔法とかスキルで完全なコピーが作れるから……結局、硬貨に落ち着いた」
「なるほど……ファンタジーだからって納得してたけど、魔法とスキルのせいなのか……」
銅貨:1メニー
銀貨:100メニー
黒貨:10000メニー
金貨:100000メニー
白金貨:1000000メニー
銅貨から黒貨までは百枚毎になっていて、金貨になる時と白金貨の時は十枚に変わる。銅貨と銀貨が嵩張りそうで嫌だけど、ティアから貰ったポーチがあればそれほど気にならないかもしれない。
物価は日本と違い過ぎて正確には分からないものの、一応、1メニーで100円くらいに考えていいらしい。ただ、高い物と安い物の振れ幅が大きすぎて参考にしかならないそう。
「じゃあ、二人で20万メニー持ってることになるのか。……余裕でひと月暮らせない?」
「ん、一般家庭なら3万くらい」
「まぁ、少ないよりはいいかな……」
武器とか防具を考えたら速攻で無くなりそうだし。
そんなことを話していると、道の奥に町が見えてきた。某巨人が出てくる漫画のような大きな壁ではなく、2、3メートル程度の小さな石垣。
まぁ、何十メートルとかの大きな壁が必要なら、こんな所に町を作ったりしないだろう。そんなものを作るくらいなら町を捨てる。
「門番居るけど大丈夫なのか?」
「ん、平気」
「ならいいけど」
女神のティアが言うんだから、と安心して町に近づいていく。門番に立っているのはどこにでも居そうなおじさん。ただし筋肉ムキムキ。
「………」
「え? その手は一体……」
門の前に来ると、おじさんが無言で手を出してくる。わたしが首を傾げていると、ティアがスマホもどき(正しくはパーソナルプレート)を手に乗せる。
とりあえず真似をして渡すと、ちらっと確認して返された。
「………」
やっぱり無言で道を空けるおじさん。
何も言わないことに対して文句は無い。仕事自体はこなしてるからね。なので、「ありがとうございます」とお礼を言っておく。お仕事頑張ってください。
「……き、緊張した……」
そんな呟きは聞かなかったことにしましょう。
うん、俺も気持ちは分かるよ。客観的に見ると美少女二人だからな。慣れてなかったら無言になるのも仕方な……くはないか。一言くらいは話せるだろ。
中途半端に現代と中世が混ざった町並みを眺めながら気になっていたことを聞いてみる。
「そういえば、あれは何を確認してたわけ?」
「ん、犯罪者は職業が強制的に変わる。だから、職業だけ確認すればこういう小さい町は大丈夫」
「へぇ、日本より犯罪者に厳しいなぁ……」
同情はしない。犯罪者になるつもりは無いからありがたいくらいだ。
「あ、向こうに見えるのって冒険者ギルド?」
「そう。……でも、今はやめておいた方がいい」
「なんで?」
「レベル1だと男に目を付けられる」
「あー……」
テンプレ的なあれが起きる訳だ。
しかも、相手が高レベルだと撃退も出来ない。
それなら行かない方がいいな。
「じゃあ、武器屋でも行くか」
この剣は叩き斬るものなのでわたしには合わない。せめて、もう少し切れ味のいい剣がいい。出来れば刀。
途中、おばちゃんに道を聞いて武器屋に辿り着いた。
「いらっしゃいませ〜!」
おや? 武器屋と言えばドワーフのイメージがあるんだけど、居るのはエルフで巨乳な女の子。これはどういうことだ!
「……じーっ」
別に見蕩れてる訳じゃない。
だからそんなに睨まないでって言いたい。
「何かお探しですかー?」
「あ、えっと……今の剣より薄刃で長めの剣と、魔法使い用の杖が欲しいんですけど」
「薄刃で長い剣ですかぁ〜……それならこっちですねっ! 杖は向こうに並べてはいるんですけど、専門外だからよく分からなくて……」
「ん、自分で見てくる」
「了解」
お姉さん、手を握らなくていいのよ?
ほら、ティアの視線が刺さるから!
ちなみに、ティアが杖を使うというのはここに来る途中で聞いた。わたしが間違いなく前衛だから、回復や援護をティアが担当する。攻撃系は二人で使うものを分けたいと思う。
「これなんてどうですかー?」
「うーん……ちょっと軽いかもしれないです」
「軽い、ですか……?」
片手で扱う分には丁度いいかもしれないけど、両手で振るのには少し軽過ぎる。というか、片手で振るにしてもレベルが上がったら物足りなくなるだろうし。
いくつか見せてもらう内に、一振りの剣が気になった。
「あ、そ、それは……」
口ごもるエルフっ娘に疑問を抱きつつも、手に持った片刃の剣を構えてみる。
うん、いい感じ。手に馴染む。形状は直刀に近くて、重さもわたしが使っていた刀とそこまで変わらない。いいね。
「これ下さい」
「えっ……」
「?」
「ありがとうございます! それ、私が打ったんですよっ!」
俺の手を握って嬉しそうに笑うエルフっ娘。
その笑みに思わず見蕩れ、ティアからジト目を頂戴してしまう。だって、滅茶苦茶可愛いし俺に向けられたものなんだから嬉しいじゃん。
「あ、ごめんなさい! 私ったらつい……えへへ〜」
「そんなに嬉しいものなんだ?」
「はい! あ、私、ここでずっと修行させて貰っていたんですけど、この剣が初めて合格したものなんですよー? ずっと頑張ってきたので、こうして選んでもらえたのは凄く嬉しいんですっ!」
手を握ったままぴょんぴょん飛び跳ねる。
わたしもティアも、視線は胸に釘付け。触ってみたい気持ちと、羨ましいと思う気持ちがごっちゃになって複雑。当の本人は全く気づかずにぴょんぴょんしてるけど。
「あれ? 合格ってことは……居なくなっちゃったり?」
「え? あ、はい。この町から東に行くとレコッタっていう街があるんですけど、そこでお店を開きます」
「合格してすぐ開店……」
「師匠に、合格したらもう教えることは無いって言われちゃいました。なので、思い切って自分のお店を!」
「そっか、なら、暫くしたら行くと思うからよろしく」
「はい、お待ちしてますねー」
ティアを待っている間、剣の話や甘いものなんかの話をして、その流れでフレンド登録をすることに。異世界で初めての友達がエルフの巨乳美少女という。
「ん、これにする」
「それって木?」
「ただの木じゃない。エルダートレントの中で一番丈夫な所。魔獣の素材だからマナの増幅率も高い」
「よく分からないけど良さげだね」
剣と杖で合計3万メニー。
杖の方が圧倒的に高い。つまり、それだけティアの活躍に期待していいのかな? まぁ、女神なんだから強いに決まって……いや、わたしに合わせて弱くなってる可能性もある。
後でちゃんと確認しとこう。
「ありがとうございましたー!」
エルフっ娘――ソフィーに見送られながら移動する。店の前まで出なくてもいいんだけどね。凄く目立つから。
「……優、デレデレしてた」
「えっ? 別にしてない、ぞ?」
「居なくなるって聞いて残念そうだった」
「それは予備の剣を作ってもらえないからだし」
「……本当?」
「本当だって。そんなに不安?」
「ん……嫉妬はするけど、お嫁さんが増えることは別にいい」
「んん?」
この子は何を言っておるのかね。
「召喚された男の内、半分以上が一夫多妻になってた。優も、ハーレム願望があったはず」
「え? まぁ、無い……こともない、みたいな……」
「私が一番なら6人目までは許す」
「何でその数字?」
「毎日愛し合うとして、私が一週間に二回」
「あー、うん、なるほど……」
ハーレム願望が無いと言えば嘘になる。
でも、今の俺は体が女の子な訳で。愛し合うも何も入れるものが付いてないし、女の子が好きって言う人もあんまり居ないと思う。
「そんな優におすすめのスキルがある」
「……心、読めないんじゃなかったか?」
「優の考えてることくらい、少しは分かる」
「さすがストーカー」
「……そういうことを言うなら、襲われる覚悟はしておいて。ふふ、夜が楽しみ……」
やばい、余計なことを言ってしまった。
最後に不穏なセリフを……ん? むしろ期待が膨らむセリフかもしれない。
この時、周りの人に「尊い……」とか「若いわねぇ……」なんて言われているとは思わない俺たちだった。
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