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「お友達も連れておいで」
そうは言うものの、今のぼくは事情があって人を遠ざけているので、大学で誘えそうな『友人』と言えばたった一人しか思いつかない。スマホで呼び出すとすこぶる軽いフットワークでそいつは教室に現れた。
「土曜ツグセン宅でパーリィだって? 当然参加するからシクヨロ♪」
同級生の、二月 五夢だ。
オシャレな柄のシャツにサロペット、という中性的な出で立ち。肩まで伸ばしたボブの髪の毛は今は明るい黄金色に染まっている。喋るとしっかり男だが、見た目だけなら可憐な女の子にしか見えない。
彼は、一年生の頃のミスターコンの表彰式で知り合って以来の親友だ。
所属学科は違うけれど、彼のSNSでの活動に付き合ったりしながら何かとつるんでいる。どういうわけか分からないけれど、ぼくと親しくしていても悪い影響を受けていないらしい。この『体質』のせいですっかり孤独を深めていたぼくにとっては貴重な存在の一人なのだ。
「…………うーん…………」
「どしたのさ、ミルミル。浮かない顔して。ツグセンにまんまと嵌められたこと? それともまた愛しのカピセンセーのことで悩んでんの?」
「違う。献立どうしようかなと思って」
「真面目かよ! ウケ~。もう脳内でシミュレート始まってんじゃん」
茶化されるが、作るほうにとっては大問題だ。
さっきカレンダーで日付を確認したら、今日は金曜日。つまり軽食パーティーとやらは、もう『明日』に迫っているのだ。入念な下ごしらえが要るメニューはとても間に合いそうにない。
「あとさ、五夢。万世先生のこと『カピ』って呼ぶのやめろよ。失礼だろ」
「カピバラ可愛いからいーじゃん! ミルの大好きな先生ってもそもそしてるし、動物チックだし」
無礼を嗜めるも五夢に反省の色はなく、あっさりとそう返されてしまった。まぁいいか。彼は人に勝手な印象で適当にあだ名をつける常習犯なのだ。そのうち呼び飽きたら別の呼び名を考えることだろう。
「……今から準備出来るやつで、何かパーティーっぽいメニュー無いかな」
生まれ育った環境もあって、ぼくは友達とパーティー的なことをしたことがない。『家』の大広間で時々関係者を招いた晩餐会のようなものが開かれることはあるけれど、あれはまったく別次元の話だ。
ぼくが絶望していると、五夢が黒目が一回り大きくなるカラーコンタクトを嵌めたきらきらした瞳でパチリとウインクしてきた。至近距離で見ると、うっすら化粧まで施されているのが分かる。細部まで抜かりがない。
「それだったら、お手軽☆女子たちも大喜びのたこパで良いっしょ!」
「たこパ?」
「そっそ。たこ焼きパーティー。略して『たこパ』! ゴチソウってわけじゃないけど、準備しやすい割に生地とか中身とかこだわり甲斐があるし、盛り上がること間違いナシ! たこ焼き器あるから持ってくよ!」
遊び事情に詳しい先導者五夢が、この時ばかりはぼくの進むべき道を明るく照らしてくれた。
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