幕間「都九見の目論み」~なぞかけ勝負~

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 気を取り直してパーティーの準備を始める。  料理番組みたいなお洒落なアイランドキッチンは、あまり使われている形跡がない。ぼくは手際よく生地の粉を混ぜ合わせ、たこを一口大に切り、長ネギを輪切りに刻み、天かすと紅生姜、刻みのりを用意する。  ついでに冷蔵庫にある物とうちから持ってきた余り食材を使って、三品ほど簡単なおつまみをこしらえる。かりっと焼いたベーコンチーズ串、鳥の胸肉のポン酢風味焼き、小松菜とひき肉の香り煮。  あまりお酒に強くないぼくと違って、ツグセンと五夢(いつむ)はかなり呑むはずだ。まぁこれだけアテがあれば足りるだろう。  五夢(いつむ)は「これじゃ()えるもんも()えねぇ!」と怒り心頭で准教授に窓の前の本を片付けさせている。 「手厳しいなぁ」とこぼしながら、都九見(つぐみ)さんは大量の分厚い本をひょいと抱えて別の部屋へと移動させていた。五夢(いつむ)もそれを手伝う。百六十センチもない小柄な体躯で、ツグセンと大差ない量の書物を抱えてせわしなくリビングを往き来していた。  ようやく全面ガラス張りの窓が活かされるようになったところで、下準備も終わり、皆お待ちかねのたこ焼きパーティーが始まった。 「早く早く♪ 重労働したからすっかりお腹が空いちゃったよ」 「ツグセン軽々運んでたくせによく言うよ。意外と鍛えてんの?」 「フィールドワークで相当山歩きしてるからねぇ。二月(ふたつき)君こそ脱いだら凄いタイプでしょう」 「あ。分かっちゃう? いつどんな子に見せてもいいように朝晩欠かさず筋トレしてるからね~。腹筋とか割れてっし。触ってみる?」  ぼくがひ弱なだけかもしれないが、『文系男子』達の秘められたポテンシャルに目眩がする。  たこぼうずを使って鉄板の二十個の穴にたっぷりと油を塗り、丁度良く温まったところで、一気にプレート全体を覆うようにして生地を流し込む。固まる前に、主役であるたこを一つ一つの穴に素早く投入し、天かす、長ネギ、紅生姜、刻みのりを順番にぱらぱらと散らしていった。 「ほほぅ、いい手際だねぇ♪」  モダンな誂えの高そうなダイニングテーブルの上で熱気がみるみる高まっていくのを、男三人で固唾を飲んで見守る。じゅうう……と美味しそうな音が響いてきた頃合いで、たこパ慣れした五夢(いつむ)が合図してきた。 「生地の端っこが固まってきた! そろそろ返し時だよ、ミル」  穴の周りの生地をピックでぎゅうぎゅうと中に押し込めながら、焼け具合をチェックする。真ん中のほうのよく焼けた生地の端にぐいっと竹串を差し込み、手首のスナップを使って一気にひっくり返す。  ぽすん、と穴の中で生地が裏返り、丸い面を上に向けて見事に着地した。  わー! と両脇のギャラリーから歓声が上がる。  事前に動画投稿サイトの『ロクチューブ』のレシピ動画で手順を見て確認していたからバッチリだ。いかにもたこ焼きっぽい形状に仕上がっている。一度目ですっかりコツを掴めて嬉しくなったぼくは、てきぱきと調子よくピックで残りのたこ焼きをひっくり返していった。 「はいっ、第一弾出来ました!」 「待ってました! FIVES(ファイブズ)に上げよーっと。ハッシュタグ、たこパなう!」  五夢(いつむ)のスマホが、ちょうどいい感じに焼き目のついた二十二個のたこ焼きがほこほこと大皿の上で湯気を立てている様子をぱしゃぱしゃととらえる。ソースとからしマヨネーズ、青海苔と鰹節を振りかけると、 「記念撮影もいいけど、熱いうちに召し上がれ」 「いただきまーす!」  お腹を空かせた男子たちが、一斉にあつあつのたこ焼きに食らいついた。  
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