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「美味っ!」
皆の声が揃う。
外はカリっとしていて、中はとろとろ。一口大のぷりっとしたタコに、紅生姜のアクセント。狙った通りの仕上がりになっている。甘めのソースもちょうどいい具合だ。ぼくは胸を撫で下ろす。
「うん、美味しい。さすがは七五三君。万世君の胃袋を握るだけの実力者だ。この生地の風味……何か混ぜているね?」
ヱビスサマビールの缶を勢いよく呷りながら、都九見准教授がマイペースにたこ焼きとおつまみをつついている。
「はい。今回は市販のたこ焼き粉じゃなくて、自分なりに配分を考えた自家製粉を用意してきたんです。あとは隠し味にだし醤油を」
少しでも美味しくなるように自分なりに考えて色々と工夫してみたのだ。ちょっとしたこだわりポイントに気付いてもらえて嬉しい。
「確かに、フツーに作ったやつと一味違うね。彼女にしたいくらいだわ。まじウマ」
はふはふとたこ焼きを頬張りながら、五夢はうっすらピンク色に色付いたスミッコノフカクテルの瓶をぐびぐびやっている。すっきりしていて見映えのする飲み物が好みらしい。
「皆が喜んでくれて良かった。料理人冥利に尽きます」
料理を作る者にとって、食べてくれる側が嬉しそうにしている様子を見ることが、何よりもエネルギーになるのだ。じわじわと感動を噛みしめていたら、
「おや七五三君。料理人冥利だって? 私の駄洒落がとうとううつったね~。さすがは我が子♪」
指導員の調子に乗った発言に少しばかり苛ついたぼくはアツアツのたこ焼きを一つ爪楊枝にさし、あっはっはと笑う都九見の口の中目掛けて投げ入れた。
「熱っ!!!」
悲鳴を上げた准教授がよく冷えたビールを慌てて口に含んだ。眼鏡がずれるくらい悶え苦しんでいるが、ぼくは気にしない。
「すみません、つい手が滑って」
「……ふぅ。七五三君、ちょっと君、いきなり熱烈すぎやしないかい」
「料理人冥利は別にダジャレじゃありませんし、我が子になった覚えもありません」
「まーまー。堪能したところで、そろそろ第二弾焼き始めようぜ。今度はボクに焼かせてよ! イツムスペシャル作ったげる!」
生地の入ったボウルとおたまじゃくしを手に五夢が俄然張り切っている。
たこ焼きなんて作ったのは初めてだし、複数人でこうやってわいわい料理するのも初めてだ。一人で試行錯誤しながら作る料理も楽しいけれど、皆で手分けしながら作るのもなんだか楽しい。
また今度は万世先生も一緒に……とアルコール控えめのほろ酔いフルーツサワーを傾けながらふわふわ空想していたばっかりに、目の前の異常事態に気付くのが一瞬遅れてしまった。
察知した時には、もう遅い。
五夢がドクロマークが描かれた小瓶を懐から取り出し、たこ焼き器に向かって真っ赤な液体をぽたぽたと振りかけたのだ。
「ーーちょっと待って! 今、何入れたの!?」
「ふっふふー。たこパと言えばやっぱコレっしょーー激辛ハバネロ入りデス・ソースだよ! 二十個のうちアタリ二個! 『ロシアンたこ焼き』ゲームで盛り上がろー♪」
――かくして、ぼくらの地獄の戦いが幕を開けたのだった。
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