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「何なの五夢――『ロシアンたこ焼き』って!」
「え? 知らないのミルミル。食材の中にいくつか激辛のアタリを混ぜて、ロシアンルーレット方式で順番に食べてくパーティーの定番だよ!」
「あああ……何作ってるんだよ。食べ物をオモチャにしないでよ!」
ぼくは愕然とする。
ロシアンルーレット。諸説あるが、帝政ロシア時代にルーマニアに滞在していたロシア軍が自暴自棄になって始めたと言われている、あのゲームだ。銃の六つの弾倉の中に一つだけ実弾を込めて、皆で順に引き金を弾いていく気の狂ったデス・マッチ。世界史の授業で習った薄い知識を引っ張り出す。
「ダイジョブだって! 当たったヤツがちゃんと責任もって食べきればいいしムダにはならないよ」
「無駄にならなくても、絶対辛い……」
「まーまー。細かい事いーからいっぺんやってみようよ! なっミル?」
バシン、と思いっきり背中を叩かれてつんのめる。
友人はもうすっかりやる気満々だ。この狂気の沙汰を止めてくれる人はいないのか――縋るような目で、この中で最年長の立場ある大人であるはずの都九見さんのほうを見やる。
「……でもそれだと勝負にならないんだよねぇ」
「ん? どゆことツグセン」
「民俗学者の類まれなる観察力と記憶力を舐めているね。さっき二月君が焼き上げるのをずっと見ていたから、どれだけたこ焼き同士を入れ替えたとしても私にはアタリの個体が判別出来てしまうんだよ」
と、腹立たしささえ感じる余裕の笑みを零している。
駄目だ。この大人も信用ならない。
「だからさ。こういうのはどうだい?
私が三問、簡単な『なぞかけ』を出すから、君達が全問正解したら私がそのロシアンたこ焼きの『アタリ』を食べてあげる。でも不正解なら――君たちには地獄を味わってもらうよ。
『なぞかけ』はただの言葉遊びじゃあない。『掛詞』――意味と響きを操り、言の葉の魔力を最大限に引き出す立派な貴族の一般教養だったのさ。最高学府で学んでいる君たちなら、簡単だよね」
都九見さんが眼鏡をすい、と外した。片目を細め、口の端を歪めて挑戦的な表情を向けてくる。宣戦布告だ。
「ハン! ツグセンこそ、ボク達の頭脳舐めてんね? いーぜ、その勝負乗ってやるよ。その代わりオレらが答えられたら約束通りお前が食えよ」
ツグセンの挑発に触発されてか、いつもの五夢とは違った勝負師のような雰囲気を醸し出している。皆で楽しくパーティーをしているはずだったのに、さながら一触即発の喧嘩が始まりそうな勢いだ。
「一人ずつでもまとめてでも、かかって来なさい子供たちよ!」
すっかりノリノリの二人に巻き込まれる形で、ぼくもその『なぞかけ』勝負とやらに参加させられることになってしまった。
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